彼女との付き合いは高校2年生の春に始まった。別の中学ではあったが同じテニス部だったこともあり、入学当時から彼女の存在は知っていた。話しかけようにも、実際に高校生になってから話す機会は全く無く、進級と同時に行われたクラス替えでようやく顔をまともに合わせることになった。

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「えー、同じクラス!?いつ話しかけようかなーって思ってたのに、いつの間にか2年生になっちゃったよ!これからよろしくね!」

先に話しかけてきたのは彼女の方。小柄な身体にサラサラの髪の毛、誰にでもフレンドリーに話す彼女は、あっという間にクラスの中心人物になっていた。私だけが一方的に彼女の存在を知っているのかと思っていたが、どうやら実際は違ったようだ。彼女も同じように中学時代から私の存在を部活を通して認識しており、入学当初からいつ話しかけようかとタイミングをうかがっていたという。話してみると、驚くほどに気が合い、いつしかお互いの名前を呼び捨てで呼び合うようになった。成績は良く言えば中の下、運動神経は中の上、愛嬌は最上級の彼女。一緒に過ごす毎日はとても楽しく、気がつけばあっという間に高校3年生になり、進路を本格的に決める時期となった。
「ねぇ、どこにするかもう決まった?」
放課後の教室。残っている生徒はもうほとんどおらず、その中でも進路の話をしているのは、おそらく私たち2人だけだった。

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「今のところ隣の県にある専門学校で美容の勉強したいなーって感じかな。うちの親厳しいけど、隣の県ならお姉ちゃん家族が住んでるし、実家からも近いから許してくれそうかなって」
まぁ、まだ分からないんだけどね、と私は最後に付け足して彼女に言った。そっかぁ、と小さく呟いて教室の天井を見上げる彼女。
「ついに離ればなれになっちゃうってことかぁ」
ため息混じりに吐き出した言葉に、彼女の進路への不安と離れることへの寂しさが滲み出ていた。

「そっちはどうなの?行きたい学校決まった?」
今度は私が質問する。彼女は「うーん」と呟きながら眉間に皺を寄せていた。
「保育科がある学校に行きたいんだけどさ、ここら辺だと短大しかないじゃん?学費的に専門学校ならもう少し親の負担減らせたりするのかなーって思って」
と、ここまで言って「あ!」と彼女が閃いたように言葉を続けた。
「ねぇ!その隣の県の専門学校ってさ、保育科無いの!?」
キラキラした眼差しで私を見つめる彼女。完全に何かのスイッチが入ったようで、私の手を強く握りしめてくる。

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「ちょっと待って……調べてみる……」
携帯電話を取り出し、検索サイトに学校名を入れ、ホームページを開いてみる。あった、保育科……。
「よっしゃあ!私もここにする!ここに行く!親に頼んでみよーっと!」
多分、親も驚くだろうが、現時点で一番驚いているのは、正真正銘私である。なんだ、この決断の速さは…。しかし、その驚きの直後に笑いが込み上げてきた。さすが、私の友達!こうでなくちゃ!!と。
その後、私たちはその専門学校に無事進学。今でもその学校がある県に在住しており、彼女は専門学校時代の同級生と結婚、二児の母となった。まだ独身の私とでは生活スタイルが異なるが、連絡は今でも時々とっている。パートに出る相談を受けた際、私が広告代理店でOLをしていると告げると、「え!私もOLやりたい!」 と言って、すぐに別の会社の事務スタッフに応募していた。昔も今も変わらず、その時の決断の速さと勢いの良さには驚かされる。私の自慢の友達の話である。