「完璧じゃなくていいんだよ。素直に頼ったほうが、周りも協力してくれる」
学校からの帰り道、駅のホームでかけてくれた先輩の言葉が、今でもずっと心に残っている。

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その先輩と出会ったのは、お互いが中学生だった頃。住んでいる町が企画した体験型のイベントで、同じ町に住み、違う中学校に通う一歳年上の彼女に出会った。

人見知りが酷く、初対面の人に話しかけるなんてできなかった私が、なぜか彼女には積極的に話しかけていった。何かの縁を感じたのかもしれない。このとき彼女は中学3年生で、高校受験を控えていた。彼女と同じ高校に行きたい。その思いで私も、彼女と同じ高校を志望校に決めた。
翌年、私は無事第一志望の高校に受かり、彼女の所属する演劇部に入部した。私が所属していた演劇部では、脚本選びから、照明、音響、舞台装置、小道具、衣装メイク、演出まで、部員である生徒が担う。私が入部した当時、憧れの先輩である彼女は、脚本の総指揮役である「演出」の役割を担っていた。彼女を含め、先輩方はみんなユニークで、それでいて頼りがいのある人たちであった。入部1年目、先輩方のもとでひたすら演劇に打ち込んだ。

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学年が上がり、後輩を迎えることになった。夏の大会で先輩方は引退となり、私たちが中心となった活動がスタートした。私は部長になった。部長になった以上、作品作りだけに力を傾けてはいられない。後輩の指導、活動計画、外部との打ち合わせ、部員同士の揉め事の解決。次から次へとやってくる業務に奔走する日々が続いた。忙しさと責任感に追われ、心身ともに疲労が溜まった。
ある日の部活終わりの帰り道、駅のホームで電車を待っていると、偶然、憧れの先輩である彼女と鉢合わせた。先輩は大学受験の勉強で忙しく、顔を合わせたのは本当に久しぶり。思わずその場で抱き合ってしまった。
「最近部活はどう?」先輩のその言葉を皮切りに、私の話は止まらなくなった。しかし、楽しい話よりも、圧倒的に悩みや愚痴のほうが多くなってしまった。私の話を一通り聞き終えた先輩は、少し考えてからこう言った。
「その悩みを、仲間や後輩に素直に言ってみたらどうかなあ」

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聞けば、彼女が部活の現役で演出をやっていたときに、似たような悩みを抱えていたらしい。作品の総指揮役としての責任感、仲間をまとめることの難しさ。そのとき彼女は、自分の悩んでいることを、後輩にも素直に話したという。その後、部員それぞれが問題を自分のこととして考え、意見を言うようになってくれた。

「一人で抱え込むと孤立しちゃうんだよ。『先輩』だからって、完璧なわけじゃない。素直に話して頼った方が、みんなも話してくれて、お互いが何を考えているかがわかる」
「先輩」として周りを引っ張っていくのに大切なこと。それは、一人で完璧にこなすことではなく、仲間同士で協力し合い、乗り越えていくチームワークを作っていくこと。目が覚めるような思いがした。
私が部活を引退した後も、大学に進学し、進級し、自分が先輩となる機会があった。バイトで後から入ってきた新人に仕事を教えることもあった。自分が先輩の立場になる度に、憧れの先輩の言葉を思い出す。「先輩」の役割は、一人で完璧に責任を負うことではない。仲間と協力して、よりよいチームプレーができるように空気作りをすること。先輩の背中を見て、私も「先輩」になれたのだった。