私は今年、28歳になった。
現在、2歳下の彼氏と同棲している。
料理担当は、ほとんど彼だ。
私がやると驚異的に遅いからだ。
料理をしているときにモタモタしていると、彼氏に「クビ!」と一刀両断される。

レシピを見ながら作った夜ごはん

ある日、私は仕事が先に終わったため、夜ご飯を作ろうと意気込んだ。
頭の中では、温かい白ご飯とわかめと豆腐の味噌汁、麻婆春雨、焼き魚、きんぴらごぼうに決めていた。

仕込み始め、魚の匂いにつられてきた猫をなんとか防御して焼いた。
ご飯は水量完璧なはず。
味噌汁はいつも通り作れた。
麻婆春雨は、混ぜるだけだから大丈夫。
そして、きんぴらごぼう。
ごぼうと人参は、問題なく切れた。
いつもは「目分量でなんとかなってきたから、適当にやればいいかな」と思いながら作っていたが、今日はレシピを携帯で見ながら作ることに決めた。
だが、私は同時に二つ以上のことはできない。
なのにその時は、麻婆春雨ときんぴらごぼうを同時に作った。
これが後に大惨事を生むとも知らずに…。

私のレパートリーの一つだった「きんぴらごぼう」

彼氏が仕事から帰ってきて、珍しく私が料理しているところを見て、驚きながらも時短のために先にお風呂入っていった。
その最中、気付いた。
きんぴらごぼうが黒くなっている。
ああ、これは失敗した。
焦げた、炭になっている…。
食材を買ってくれているのは彼だ。
底知らない罪悪感に苛まれ、お風呂に入っている彼の所に突撃し「きんぴらごぼうを焦がした。ごめんなさい」と話した。
彼は頭を洗いながら「大丈夫だよ~」と言ってくれたが、その言葉は私の頭には入ってこない。
「やってしまった…失敗してしまった…これだから私は……」とネガティブモードに突入。きんぴらごぼうは出来上がり、彼がお風呂から上がるのを待っていた。
その後、彼が炭化したきんぴらごぼうを見て「大丈夫っしょ~、ご飯にかけて食べてみたい!」と言ってくれたが、味見して一言。「これは…」と苦笑いした。
再度「ごめんなさい」と言うと、彼は「また次頑張ろ!」と言ってくれた。
申し訳なさと嬉しさが入り混じった複雑な気持ちと戦いながら、テーブルに作ったおかずを並べた。

いつものように二人で手を合わせて「いただきます」と言った。
彼はいつもなら味噌汁を食べて「うまい」と言ってくれる。
だが、今日は違った。
「…味噌汁、飲んでみて」と、これまた苦笑いですすめられた。
恐る恐る飲んでみると、薄い。
「水と材料の分量を間違えたか…?」と考えていると、段々と味噌汁を作っている自分が蘇ってくる。
「……そうだ!出汁を入れるのを忘れた」
また、やってしまった。
今まで目分量で成功してきた味噌汁ときんぴらごぼう。
私が作れる数少ない料理の中で失敗した。
もし、仕事で疲れていたと理由付けても、私は4時間のパート働きに対して、彼は正社員として8時間働いている。
毎日彼が作る美味しい料理の数々。
もう何も言い訳はきかない。
今まで彼はこういう失敗に対して指摘してきたことはなかった。
でも、今回ばかりは申し訳なさそうに言ってきた。

失敗するのが怖くて「心霊スポット」になった我が家のキッチン

もう全てが重なってしまい、やっぱり料理は好きでも苦手分野になった。
そして、私は苦手分野を作ったキッチンを睨みながら“心霊スポット”と名付けた。
「キッチンは、私が怖い思いをするスペースだ」と頭の中にセーブされ、そしてもう二度とレシピサイトは開かないと決めた、その時は。


何でも完璧にやらないと満足できない私。でも、料理をしている私を見た驚く彼の目、材料を無駄にしても「大丈夫だよ」と微笑んでくれた彼の顔、時どき上手に作れた料理に「美味しい」と言ってくれ、でも絶対100点は出してくれない彼の顔を思い出し「また作ってみようかな、次は少しだけ100点に近付けるように」と少し前向きになった。


失敗も無駄じゃないのかもしれない。
こうやってまた「美味しい」と言ってくれる料理を作れたらと、心霊スポットだと思っているこの場所が、彼の笑顔を作れる場所になれたら嬉しい。