「都会で仕事がしたい」
田舎出身の私にとって、多くのビルが建ち、多くの人で賑わっているキラキラとした都会は憧れだった。
大学生になり、卒業後の進路を考えた。「立派な社会人になりたい」という思いから、長期のインターンシップを始めることに決めた。
もちろん、場所は都会一択。早速多くのインターンシップに応募した。
「絶対に都会でインターンシップを頑張るんだ」
そう心に誓い、何度も書類を書き直し、何度も面接練習に励んだ。

インターンシップの面接を受けていく中で、ある企業に強く惹かれた。
面接というよりは、楽しい会話をしたといった印象で、すごく居心地の良さを感じた。
「ここでインターンシップをしたい」
そう強く思った。

◎          ◎

しかし、過去の苦い出来事が頭をよぎってくる。
都会に憧れた私は、過去に都内のアルバイトに応募した事がある。
少しでも都会の空気に触れていたい。
その思いは叶わず、結果は不合格。理由は、住んでいる場所が遠すぎるということ。
「住んでいる場所でやりたい事が制限されるなんて、世の中は不平等である」
「やる気はあるのに、どうして住んでいる場所で落とされてしまうのか」
交通費を支給するという決まりがあったため、雇う側の事情もあっただろう。
しかし、一人の人間としてではなく、変えられない条件の部分で評価されたのが悔しくてたまらなかった。結果が分かった後、とにかく涙が止まらなかったと同時に、都会に住む友人たちが羨ましくてたまらなかった。

このような出来事を思い出してしまい、インターンシップの面接を受けた後は不安と絶望と諦めの気持ちでいっぱいだった。
「きっと今回もダメだろう。いつかこんな素敵な企業で働けたら良いな」
こんな思いを抱えつつ、お昼ご飯を食べていなかった私は、空腹で倒れそうだった。
「もうここに来ることはないだろうし、せっかくだから美味しいランチでも食べて帰ろう」
そう思い、ご飯屋さんを探した。

◎          ◎

「やっぱり沢山の美味しいお店がある。どこで食べようか」
考えていたその時、激安中華屋さんを発見した。しかも、大好きな麻婆豆腐ランチ。
さらに、値段は1000円程。学生の私にとって本当に有り難い。
引き寄せられるように入店。
「いらっしゃいませ〜!!」
元気で明るい女性店員さんの声。
壁には台湾料理のメニューが多く貼られていて、日本とは思えない雰囲気が漂っていた。
料理を食べている人は皆笑顔で、幸せそうな顔で帰っていく。

早速、麻婆豆腐定食を注文。白米、スープ、漬物。次々と運ばれてくるメニューの数々。
そしてメインの麻婆豆腐が運ばれてきた時、衝撃を受けた。
とてもキラキラとしていて、今まで見たことのないオーラを放っている。
一口目を口に運んだ時、さらに衝撃。こんなにも素晴らしい食べ物が存在するなんて。
しかも、すごく元気が出る。この麻婆豆腐食べた人は、皆幸せになるに違いない。
さっきまで抱えていたネガティブな感情が吹き飛ばされるくらい、衝撃的な美味しさ。
あっという間に完食し、レジへと向かう。食べ終える頃には、すっかり前向きになっていた。お会計を済ませた時、女性店員さんが話しかけてくれた。
「お姉さん、可愛い声してるね〜!!またお待ちしてます!!」
独特な声を少しコンプレックスに感じていた私は、とても嬉しかった。
「なんて最高なお店なの。絶対にまた来よう」そう心に決め、退店した。

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次の日、インターン先からメールが届いていた。結果は「合格」 。
ふたつ返事で内定を承諾し、参加することになった。

インターンがある日は、必ず出勤前に台湾料理屋さんへ寄り、麻婆豆腐を食べてから向かった。とびきりの明るい笑顔で迎えてくれ、大好きな料理で元気をもらい、全力で仕事に向き合う。それがルーティンとなっていった。

何気なく入った台湾料理屋さんは、値段がつけられないくらいの元気と笑顔を与えてくれた。今はインターンを終え、なかなか行く機会がなくなってしまったが、必ずまた行こうと決めている。
何よりもの、パワースポットだから。