私の友人にはプロの小説家がいる。公募で賞を受賞し、そのまま雑誌での連載までこぎ着けた。
推しであり、最も近しい友人と言える。大学の文芸部の同期の彼女。そんな彼女が最終選考まで残ったことを家族以外で一番に教えてくれたのが、私だった。
なんだか最近、Twitterで妙にはしゃいでいて、そのくせ忙しそうだな、とは思っていたのだ。連絡をくれた日は、最終選考前の最後の原稿修正を終えた日だったらしい。

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「校了した。聞いてくれるか」
突然のLINE。私は真っ先に「受賞」という言葉を想像した。
「新人賞の最終選考に残った」
その文面を見た瞬間、カッと体が熱くなった。目の前がくらりと白くくらんで、何も考えずLINEの通話ボタンを押した。
「おめでとう」
とりあえずそれだけは言わねばならないと思って、震える声で伝えた。
彼女はいつも通りのおっとりした口調で「ありがとう」と答えた。
体の熱さはまるで血液が沸騰しているみたいだ。こんな感覚は初めてで、真っ白な頭の中に浮かんだ感情をストレートに伝えた。
「悔しい」
「うん」
「うらやましい」
「うん」
「すっごく悔しい」
「うん」
彼女の声はとても穏やかで、私の気持ちを全て予測しているかの如く受け止めてくれた。

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私だって小説家を目指して色々書いている。彼女とは同じ部室でパソコンを並べて小説を書き、批評し合った。
私は沢山公募に応募しているけど箸にも棒にも掛からず、逆に彼女は一発で通った。
親友がプロへ駆け出す瞬間を、喜ぶ気持ちはもちろんあるけれども、それ以上に暴力的な悔しさとわずかばかりのうらやましさが胸を占める。
悔しいと連呼する私に、彼女が掛けた言葉は、
「そう言うだろうと思ったけど、一番に君に伝えたかった」
というものだった。
友人として、これほど名誉な言葉はないだろう。

彼女は私がプロの作家になりたいがアマチュアどまりでいるのを知っている。だからこそ、「私はプロじゃないからアドバイスできん」と一線を引こうとすると「君も同人誌でお金をもらっている書き手だ」と引き上げてくれる。
逆に原稿に詰まっているとLINEで相談をもちかけてくるので、持ちつ持たれつ。

もう10年も昔、部室で原稿を書いていた時のように私たちは対等なライバルだと実感する。

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彼女が雑誌に新作を掲載したり、連載を勝ち取ったと知らされたときは、やっぱり血が沸騰するような悔しさが体中を巡った。でもその悔しさは私が小説家になりたいと思う、原動力の大切な一つ。
なにしろ、大賞の授賞式の夜、帝国ホテルのラウンジで夜景を見ながら約束してしまったのだ。
「今回は君に連れてきてもらった。だから今度は君をここに連れてくる」
何年かかろうとも、絶対に彼女をあの場所へ連れていく。

彼女の作り出す小説は、幻想的で不思議なキャラクターが登場して、人間もちょっと変なのだ。圧倒的な世界観を彼女は持っている。
だから、彼女が編集者から出されたテーマにひどく苦しんでいることは、さもありなんと思った。テーマが現実的すぎて、彼女の幻想的な世界観が活かしにくいのだ。
しかし、その難題をクリアし、なんとそれが連載になるというではないか!
私は彼女の親友として、ライバルとして、一人の読者として、彼女の挑戦を読めることを心から嬉しく思う。