いつも笑ってしまう自分が嫌いだった。 とりあえず笑うことが癖になっていて、へらへらしていて自信がない。 いつか誰かに見透かされるかもしれないと、怯えていた。

ふとした時に自分でも思う。
「何がおもしろくて笑ってるんだろう?」
何人かで話している時、よくわからないけど、合わせて笑ってしまう。

本当は違うと思っているけど、笑ってやり過ごしてしまう。
心の中では「そうじゃないでしょ!」と叫んでいるのに、無理やり両手でふさいでいるようで、苦しくなる。

笑わなくても平気な人に憧れて

 私は中高一貫校の出身で、多感な6年間をほとんど変わらないメンバーで過ごした。 基本的にはみんな優しくて楽しかったけど、ずっと同じ人のなかにいるので、嫌われてはいけないと思う気持ちが強かったように思う。

思春期だし、本当はひとりひとり思うことがたくさんあったはずだ。 社交だけが上手くなって、気持ちを抑えて笑うことが多かった。

あまり笑わない人を見ると、自分を持っていてすごいな、と憧れる。 そういう人は、お世辞や嘘を言わない。 簡単に笑わなくて、たまに厳しいことをいうけど、優しくて、いつもまっすぐに言葉を紡ぐ。 私はそんな笑わない人たちが大好きで、たまに笑ってくれるととても嬉しくなる。

私も、そんなふうになりたいと思っていた。
いつでもどんな時でも、笑わなくても、大丈夫な人になりたいと。

嫌いだった笑顔も誰かに褒められたなら

大学生の時、3年間アルバイトをしていたカフェがある。 カフェは60歳くらいのご夫婦が営んでいて、私は随分とお世話になった。

コロナが流行した時、お店も営業できずに大変だったのに、一人暮らしの私を心配して、お手当を持ってきてくれたこともある。 そんな店長ご夫婦は、卒業して遠い場所に就職することが決まった私に、こんな言葉をかけてくれた。

「あなたはいつも笑顔で周りの人に愛されるから、きっと就職先でも可愛がってもらえるよ、大丈夫」

誰も知り合いがいない土地で新生活を迎える私にとって、とても嬉しい言葉だった。

バイトのたびに良くしてくれて、話を聞いてくれて、美味しいまかないも作ってくれた。 一人暮らしの私にとって第二の両親みたいな人だったから、笑顔を褒めてくれて大丈夫と言ってくれたことで、少し自信が湧いてきた。

笑顔でいることで、好きでいてくれる人がいるのなら、悪く無いのかもしれない。

いつも笑顔でいるかっこよさ

 そして、社会人としての暮らしが始まった。 配属された部署には、いつも笑顔の先輩がいる。  「いつも笑っているけど、本当は嫌だと思われていないかな……」 と最初は少し怖かった。でも、一緒に働いているうちにわかってきたのだ。

私がミスをしても嫌な顔一つせず、すぐにフォローをしてくれる。 他の部署の人や、取引先の人など、いろんな人に愛されている。 先輩は、いつも笑顔で前向きで、太陽みたいに周囲の人を照らしてくれている人だった。

いつしか私は、その先輩をとても尊敬するようになった。 笑顔で仕事をする先輩が隣にいることが、とても心強い。 私の笑顔も、誰かを安心させることができるかもしれない。

簡単に笑わないで、いつでもそのままの自分でいられる人は、もちろんかっこいい。 でも、笑顔でいることが恥ずかしいことでは無いんだ。 いつも楽しそうで前向きでいる人は、周りを明るい気持ちにさせることができる。 心強いとも思ってもらえるかもしれない。 その上で、違うと思って、相手に伝えるべきだと思ったことは、ちゃんと伝えればいい。

私は、いつでも笑顔でいられる自分を、少しだけ好きになった。