「私この学校来てよかったって思う」
帰り道につぶやいた。友人がたずねる。
「なんで?」
「今の部活に入れたから。私ここ選んで本当によかった」
よかったね、とその子は微笑んでくれた。人に恵まれていると感じた。初夏の陽射しが眩しかった。

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時は遡って四月。第一志望だった高校に合格した私は、新しい生活に胸を躍らせていた。しかし、その後一ヶ月も経たない間に私の心は折れかかっていた。精神的にも体力的にも限界に近づいていた。

原因は、片道二時間近くかかる通学。毎朝始発のバスに乗らなければならない上に、部活を週五でこなし、その上学業も両立ときて、心身が全体的に崩れかかっていた。「一旦部活休もうかな、もう諦めようかな」と何度も考え、そのたびに自分のキャパの小ささを嘆いていた。

そんな私が当時所属していた英語ディベート部には、文字通り何でもこなす、とんでもない先輩がいた。先輩は私の二つ上で、生徒会長を務めていた。朝礼でハキハキと代表挨拶をする彼女の姿はとても印象的で、そのうえ彼女は成績優秀賞も受賞していたため、他の部活の生徒たちの間でも有名だった。クラスの友達がその先輩のことを話すたび、同じ部活で毎日一緒に活動していた私は自分のことのように嬉しかった。

英語ディベート部というのはとてもハードな部活で、強い議論を作るためには、とにかく論題に関する情報を集めなければならなかった。もちろん、その先輩は部活でも大いに活躍していた。冷静な判断、他のチームメンバーへの明確な指示出しと細やかな連携で、大会ではチームとしての勝利だけでなく個人賞も受賞していた。

同じチームでずっと側で見ていた私にとって、先輩は憧れであり自分の理想の姿だった。しかし、それと同時に、眩しすぎるその姿によって、何事も上手くいかない自分の影がどんどん濃く大きくなっていように感じていた。

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そんなある日、先輩と部活帰りにたまたま二人きりになった。私は、なぜ先輩がそこまで器用に何でもできるのかと尋ねた。

先輩は「そんなこと無いよ」と謙遜して笑った後、過去に睡眠時間を削って勉強と諸活動を両立しようとした結果、過労になって入院した経験があると教えてくれた。彼女はずっと順風満帆な高校生活を送ってきたと思い込んでいた私にとって、それはとても意外な出来事だった。先輩は体を大切にしてねと言った。それから、日々の学校生活でもがいてる私に、たくさんの温かい言葉をくれた。

先輩に対して、それまで私は憧れを持ちながらも、どこか自分にはほど遠いと感じていた。先輩には生まれ持った才能があって、地頭が良くて、要領も良くて、だから何でも上手くできるのだと思っていた。そして、それらに恵まれなかった自分とは決定的に違うのだと、同じようにはなれないのだと決め込んでいた。

でも実際は、それは間違いだった。表向きは輝かしい功績を残している人でも、その裏で底知れない努力をしていて、失敗を乗り越えてそこにいるのだと知った。

先輩と別れた後、帰りのバスで一人で考えた。思い返してみれば、ディベートの試合が終わったあと、勝っても負けても先輩はすぐにジャッジの元に行って、自分たちの議論の改善点をたずねていた。先輩が普段使っている手帳には、目標や日々の記録、達成度が細かく記されていた。私ができないと嘆いている間に、とてつもない努力を積み重ねていた。

自分の浅はかさに恥ずかしくなるとともに、私も同じように努力できる人になろうと気が引き締まった。心の奥が静かに燃えているようだった。

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あれからもう四年が経とうとしている。高校時代の私は、そうした先輩の背中を追って大きく成長し、三年生の頃には先輩たちが立てた記録を塗り替えた。大会の結果を聞いて、先輩はとても喜んでくれた。

ここまで育ててくれた恩返しが少しはできた気がして、とても嬉しかった。自分にとっての先輩のように、後輩にとっても自分が影響を与える存在になれていたかは、正直わからない。でも、後輩たちと一緒に勝ち取れた結果が、部活に、勉強に、自分なりに真っ正面に飛び込んだ姿が、少しでも何かを動かせていれば良いなと思う。

自分の事で精一杯だった私がここまで変われるなんて、やっぱり先輩は偉大だ。