マイナンバーカードの受け取りに、区民事務所へ向かう準備をする。空は暗く、スマートフォンで天気を調べると雨予報になっていた。レインブーツを履き、傘を片手に予約時間よりも余裕を持って家を出る。

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区民事務所に辿り着くと、予想通り館内は混雑していた。番号札を発券し、掲示物を眺めて時間を潰す。しばらくすると、自分の番号が呼ばれた。

窓口で私を担当をしてくれたのは、私の母親くらいの年齢の女性だった。
その方はとても気持ちの良い対応をして下さる人で、親切で素敵な雰囲気を持つ、所謂"感じの良い"人だった。それは、手続きが完了してしまうのも少し寂しく感じる程だった。

私は大袈裟にならないように、気持ち悪くならないように気をつけて、最後に「ありがとうございました」と伝えた。
すると彼女は、「私の息子と生年月日が全く一緒だったので親近感が湧いちゃいました」と、笑顔を私に向けてくれた。私は思わず反射的に「そうなんですね!嬉しいです!」と声に出してしまった。

2022年の日本の出生数は79万9,728人。現在の日本では1日に約2,935人が生まれているらしい。
戦後の第1次ベビーブームの出生数が約270万人で、団塊ジュニア世代の第2次ベビーブームの出生数が約200万人であることを考えると少なくは感じるが、娯楽が充実し、趣味を多く持つ人が増え、結婚にメリットを感じない人が多い昨今では自然な時代の流れと言えるだろう。

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人は、生きている間に自分と全く同じ生年月日の人間に、平均で何人出会えるものなのだろうか。私は現時点で、小学校で1人と高校で1人のみだ。

新生児室で私の隣に寝ていた赤ちゃんは、今どこでどんな風に生きているのだろう。
そんな事を思うと、私はこの日の出来事が、ふと時計や車のナンバーを見た時にゾロ目だった時のような"ラッキー"な出来事に思えてならなかった。
ツイている。勝手にそう思った。いや、そう思う事で自分を幸せにさせてあげたかった。

怒っても泣いても苦しんでも悩んでも、寿命には限りがあり、あと数十年で終わる。
人は生まれた瞬間から死へのカウントダウンが始まっている。
どうせ生まれてしまったのなら、生きているのなら、許せない何かに縛られるよりも日々に幸せを見つけ出せる楽な生き方をしていたい。

無難で綺麗で潔癖に生きることは人生の目的では無いだろう。自分を悲しい気持ちにさせた経験やトラウマは排除すべきものではなく、自分の勲章だ。

人間は、自分が傷ついている部分で人を傷つけやすいのだと聞いたことがある。自身の愛情面に傷があると、人も愛せないのだと。つまり、自分の傷を責めているうちは他人からの愛を素直に受け取れ取ることができないということだ。

自分が幸せになるために、自分にも他人にも優しくありたい。