この話をすると80%の割合で引かれてしまうのだが、私個人としてはとてもいい経験というか、とにかく笑ってほしい話なので、軽い気持ちで読んでほしい。そしてどうか、読んでくださったみなさんが、同じことにならないよう祈っている。

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私は生まれてこの方、人を好きになったことがない。その原因を、置かれていた状況から「出会いが少なかったんだ」と分析し、昨年末、マッチングアプリに登録した。

年明けすぐにマッチングした彼(以降A)の紹介文には、「身体の関係は求めていません。真剣に交際したいです」と書いていた。一カ月ほどメッセージのやり取りをして「会おう」と言ってくれたので、マッチングしてすぐにデートをこぎつけてくる男よりよっぽど信頼できた。私も合意して、3月上旬に新宿で待ち合わせをした。

ミニスカートを履いていった私は、Aと会って落胆する。リアルのAくんより、私の思っていたAくん像のほうが好印象を上回ってしまっていた。顔や外見ではなく、雰囲気や仕草などから垣間見える「この人じゃない」という女の勘。何より話が面白くない。次はないな、と心の中で決めて、その日はAのショッピングに付き合い、カフェでお茶をして帰ることになった。

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駅に送ってもらっている途中、Aがホストの看板を指差して「ああいう仕事してる人どう思う?」と聞いた。特に考えたこともなかったので「人生で1回くらい友だちと行ってみたいな~くらい」と答えた。するとまさかの「俺ホストやってんだよね」と返事。え、そのトーク力で?なんてド失礼なことは言えなかったが心底驚いた。続けざまに「来週空いてるよね?」と聞かれた。ここで私はやらかしていた。当時、転職活動中だった私は、3月めちゃくちゃ暇であることをAに明かしてしまっていたのだ。当然「あ……うん」以外の回答はなく、「美味しいお店知ってるからさ、呑み行こうよ」と言われてしまうのであった。

ドタキャンという方法もあったが、私自身がドタキャンする人間を嫌悪しているため、プライドが許さなかった。行くだけ行こう。テキトーに忙しいからとか言ってフェードアウトしよう。私はシェフパンツにモッズコートを羽織って新宿に向かった。

呑みに行こうという話だったのに、連れていかれたのは定食屋さんだった。お酒は一切ない。不思議に思ったが、特に触れもせずお腹を満たして、他愛ない話をした。すると唐突にこう切り出される。

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「この後、緊張してる?」
え?と思う。一瞬にして凍り付かせる魔法の言葉みたいな。

「何が?」
「何って、行くんでしょ?ホスト」
沈黙。そして襲い来る恐怖と焦燥。何がどうしてそんな話になっているのか。

「だって、俺ホストって言ったじゃん。それで呑み行こうってそうだって思うじゃん、普通」
思うか!だって美味しいお店つったじゃん。しかも私、友だちと行きたいって言ったよな?何を基準にした普通やねん。

「いや、行かないよ。大体お金持ってきてないし」
「いや、俺だって困る。もうお店に言っちゃってるし、俺それで連れて行けなかったら罰金なんだけど」
特大の「知るか!」をぶつけた。こうして私たちは定食屋さんで攻防を重ね、埒が明かないので私が折れた。

「罰金っていくらなの」
「3万」
「ホストに行ってかかる料金は」
「1時間で1万」
「わかった、とりあえず行こう」

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そうしてお店を出て、Aは歌舞伎町へと私を導く。歌舞伎町に入る一番手前のファミリーマートで私はAを止め、お金を下ろした。3万である。

「え、何してんの」
「これで私のことは忘れて」
しかし一向に受け取らないA。10分ほど歌舞伎町のファミリーマートで言い合って、私はとうとう彼のカバンにくしゃくしゃの3万を押し込んで逃げた。追いかけてくるA、捕まれる腕。

「離して!」
歌舞伎町に響き渡る私の声と、周りの視線。彼の手を振りほどいて走りながら、私は彼のLINEとインスタのアカウントを削除した。
私が気をつけるべきは自分のことを明け透けに話さないことだ。そこに関しては反省しているが、歌舞伎町で修羅場してきたことは面白い経験だった。

3万とられたけど、瀬璃は今日も元気である。みなさんに良き出会いがありますように。