散歩していると、いろいろな変化に気がつく。季節の変わり目は特に変化が大きい。いつも通っている道に新しい花が植えられていたり、街路樹の色が鮮やかになっていたりする。春は人の往来が激しくなっていることもあって、除雪機の音が響く冬の特有の静けさに比べたら少しだけ賑やかだと思う。新しいことが増えるから、人の声も心なしか明るくなっている気がする。

出会いは突然やってくる。猫は私をじっと見ていた

そんな明るい暖かな季節になると、思いがけない出会いをすることがある。それは、いつもと違う時間に散歩をしていたときのことだった。猫がいた。黒っぽい色の猫だった。首輪がつけられていることから飼い猫だと、すぐにわかった。飼い猫は家の中で生活するというイメージがあっただけに飼い猫って外にも出るんだなあと思った。目が合って、こちらに歩みよってきたときには、つい焦ってしまった。

その猫は首輪がついていたけれどリードもなにもなく放し飼いの状態だった。その家は簡易的な人工芝があったものの道路との間には柵もなにもなく、すぐにでも逃げ出してもおかしくないように見えた。

しかし、その猫は道路にはでず、人工芝の端に座って私を、ただじっと見ていた。飼い主に許可をいただかない限り、他人の家族には動物であっても関わらないようにしている私にとって、その時間は何というか、面接をうけているような感覚に近かった。だから、私も道路を挟んでしゃがんで、じっと猫を見ることにした。

急遽始まった面接。今度は猫の目を見てみた

猫は、呼吸を身体全体でしているのか、身体が上下に波打っていた。人間が走ったあとに肩で呼吸するように猫も毎日、必死に呼吸しているのかもしれないと思った。それが本能かもしれない。背中がまんまるいから、あるはずのしっぽがよく見えなかった。猫は、しっぽを隠すプロだった。ちょっと視点の角度を変えてみてもしっぽが見当たらなかったのだ。

今度は猫の目を見てみた。猫の目は球に近いかたちをしていた。目は基本球だけど、猫はぱっとみただけで球だとわかるくらい目が大きかった。そよ風が吹くと猫の毛がふわふわと揺れた。その瞬間に瞬きをする猫。猫も花粉とか気にするらしかった。手入れされているからか、綿毛のようにふわふわと揺れる猫の身体。鼻が動いて、何か匂いを嗅いでいる猫。私は人間だから猫ほど嗅覚は優れていないと思うが、私も猫と同じように匂いを嗅いでみる。しかし、近くの家で醤油ベースの煮物を作っていることしかわからなかった。そんな猫は私に飽きたのか、目をそらしてそっぽを向いてしまった。

しらない間に面接は終わっていたらしかった。私も、お腹がすいたので、猫に背を向けて家に帰ることにした。帰り際、少し視線を感じて後ろを振り向くと、猫が私をみていた。いつもの散歩では感じない不思議な感覚だった。

また、あの場所で、初めて出会ったときの時間で会いたい

あれから猫には会っていない。私が、元の散歩の時間に戻したこともあって、今でもお互い名前は知らないままだ。私が飼い主と対話する機会がない限り、お互い名前を知ることもないと思うと、あれは何の時間だったんだろうと、今でも思う。無駄な時間と言われても否定できないかもしれない。もしかしたら飼い主に会わなかったからこそ、名前を聞く機会がなかったからこその時間だったのかもしれない。お互い違う生物で、いつもの時間にはいない景色の一部だったからお互いに興味を惹かれたのかもしれない。

散歩は変化を感じ取れる私の多趣味の一つだ。時間を変えて、いつでも気ままにできるから楽しい。だから今度は、出会った頃の時間に行ってみようと私は、思った。あのときは偶然出会ってしまったけれど、今度は必然的に会ってみたい。いつもの景色の変化を楽しみながら、あの猫に会いにいってみようと思った。なぜだか分からないけれど、きっと私は、あの名前も知らない猫と、また出会える気がするのだ。