4,5年前、死ぬほど楽しかった出来事があった。
これは多分、一部の人からすると受け入れ難い種類の話だとは思う。というか、「一部の人」と括られるべきは、こちら側である。
簡潔にどういう種類の話か申し上げると、ボーイズラブ方面の話だ。

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その頃、大学1年生だった私は、マッチングアプリを使っていた。と言っても、やり取りして実際に会ったのは2人だけだったが。
そのうちの1人が、初めて会う前に「友達を連れていくから、そっちも誰かいたら連れてきて」と言い出した。
私は考えた末、友人のM倉に声をかける。M倉はそこまで恋愛に興味があるタイプではなかったが、ノリが良いから、来てくれるんじゃないかと思った。実際、彼女は来てくれた。案の定、「出会うぞー!」的な感じではなく、レアな体験ができるツアーに参加するかのようなノリだった。

M倉は、高校時代の友人だ。私達は2人とも、「腐女子」だった。腐女子として本格的にアカウントを持っていたり、活動していたりするほどではないものの、ボーイズラブを好んでいた。テレビで放映されているボーイズラブのドラマを一緒に見たり、ネットに上がっている漫画を読んだりしていた。

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当時、私とM倉は20歳。相手は2人とも19歳だった。特に店を予約したりはしてくれなかったので、道内に数あるチェーンの焼き鳥屋をこちらで指定した。
向こうが先に着いていたので、私とM倉は店員さんに案内してもらい席へと向かった。2人とも、イケメンすぎる感じではなくて、それは私達にとっては幸いだった。イケメンは怖いからだ。ちびまる子ちゃんの関口君とたかし君を足して2で割ったような雰囲気の2人だった。

この会自体は、よくある「マッチングアプリで出会ったけれど、それほど盛り上がれなかった人達の会」という感じだったと思う。私が元々やり取りしていた人よりも、その友達の方が頑張って話してくれている感じではあった。私も極力楽しげに話すよう心がけた。が、多分、私達と彼らは共通言語が違っていた。興味の範囲や、何を面白いと感じるかが、交わっていない感じだった。なので、この会は一次会で終了した。

彼らと別れた後、私達はファミレスに向かった。
特別悪い人たちでは無かったので、悪口や文句で盛り上がることはなかった。……が、私達には彼らに対し、共通して思ったことがあった。

「あの2人、仲、良すぎなかった!?!?」

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仲、良すぎたのだ。
彼らは幼稚園から高校まで同じで、今現在勤めている職場も同じだという。
この時点でなかなか珍しいくらいの仲良しだと思うのだが、彼らの仲の良さは、これだけに留まらなかったのだ。
会った時の焼き鳥屋の店名になぞらえて、私たちは彼らを「串山くん」「鳥井くん」と呼んだ。
鳥井くんが手羽先をうまく食べられないからと、串山くんにほぐすのを頼んだり……ねぎまのネギが苦手だからと、串山くんの皿に断りも入れず移したり……それを串山くんが「野菜もちゃんと食べろよ」と諭したり……かと思えば、串山くんが飲み物をこぼした時、過剰なほど丁寧にズボンを拭いてあげていたり……。
まあ、別に普通のことじゃん、と思われるかもしれないが、腐女子はちょっとしたことで盛り上がれる生き物なのだ。小さなことを膨らまし、拡大解釈する。
私達はファミレスから出て、コンビニでノートを買って、カラオケに入った。
まずノートの1ページ目に、彼らが実際に私達の目の前で繰り広げていた行動を書き出した。それ以降のページには、1ページ目の情報から妄想して作り出したストーリーを何編も綴った。私とM倉とで、「この展開の方が良いのでは」「それならシチュエーションは……」と意見を出し合い、創造したストーリーを。
朝までカラオケにいた私達は、彼らに……というか、ほぼほぼ自分たちが作り上げたストーリーに、酔いしれていた。彼らの仲の良さを見習おう、ということで、何故かお揃いの千円前後のネックレスを購入した。意味不明だが、本当に楽しかった。

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今現在、当然鳥井くんとは連絡は取っていない。だが、この日のことは、M倉との大切な思い出としてしっかりと胸に刻まれている。

アプリを入れておきながら、出会った相手と向き合うことよりも、妄想を繰り広げることに労力を使ってしまった。端から見ると、私は滑稽で迷惑で気持ちの悪い存在として映るだろう。そのことは、さすがに理解している。なので、この話はM倉との間と、このページだけに収めておきたいと思う。