わたしはいま、大学在学時に見つけた夢を叶えて、憧れだった職業に就いている。
それでも、月曜の朝は人並みに憂鬱だし、毎日早く帰りたいけれど、日々充実してて心から好きだと思える仕事だ。そんな仕事をできている自分を誇らしく思う。

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けれど、この夢を叶えたと同時に、叶わなかった夢もあった。

叶わなかった夢を話す前に、わたしの現在の職業について少し話そう。
わたしは保健師という仕事をしている。国家資格で定められた、医療関係の専門職だ。コロナ禍を通して一般的にも知られてきたようだが、未だにマイナーな職業だと思う。

そして、保健師の資格のある者は皆、看護師の国家資格も持っている。
そう、私の叶わなかった夢は、“看護師になること”だ。

厳密に言うと、看護師として働いていた期間はある。大学卒業後、新卒時に就職した大学病院で、1年ちょっとのあいだ、看護師をしていた。
ただ、その頃のわたしは、看護師ではあったけど“看護師”ではなかった。

大学病院の病棟は、とんでもなく忙しい。そんな中でも、わたしが配属された部署は比較的ゆとりのあるほうだった。それなのに、常にいっぱいいっぱいで、ひとつひとつが上手くいかなくて。仕事のコツも全く掴めない。努力しても空回り。新社会人なんでみんなそうだよな、と今なら思えるが、でもやっぱり、自分が思い描いていた、憧れていた、“看護師”ではなかった。
同期よりも出来ることが少なくて、任されることも限られていて、仕事も遅かった。
まぁ客観的に見たらそんなことなくて、同期と足並みは揃っていたのかもしれないが、少なくともわたしの主観ではそう感じていた。

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新卒での就活時、保健師としての就活をせず看護師になったのは、もともと看護師になる夢があったから。
幼少期から何かと体調を崩しがちだったわたしは、しょっちゅう病院にお世話になっていた。だから、看護師への憧れを抱くことはごく自然なことだった。
そんな自分の夢を叶えたい、そして次のステップとして、新しく見つけた夢である保健師へ。それが、わたしの就活時のキャリアビジョンだった。

だけど、いざ看護師になってみると、時間が経てば経つほど、「わたしは看護師に向いてないんじゃないか」という疑念が大きくなっていった。そして看護師2年目になる前に、“看護師になること”という1つ目の夢を諦め、次の夢への道を歩み始めた。保健師への転職活動だ。

運良く転職活動が成功し、2つ目の夢は叶えられた今でも、この決断が正しかったのかは分からない。叶えられなかった“看護師になること”という夢について思い残すこともある。
「諦めずに続けていれば、今も病院で活躍する同期たちと同じようになれたのかな」なんて思うこともあるけど、それは誰にも分からない。

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叶わない夢のひとつくらい、あった方がいいな、なんていまは思うようにしている。
だって、その夢が叶わなかったことで結果的に2つ目の夢を叶えられたから。
夢やぶれることはつまり絶望、どん底。そんなイメージが世間一般だと思うが、そんなことは無いんだよってわたしは胸張って言える。誰かの希望になれる。

「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がわたしは嫌いだ。ラベンダーは沖縄で花開く夢を叶えられないだろうし、ハイビスカスは北海道で越冬する夢を叶えられないだろうから。
人間だっておなじ。どんなに強く願っても、叶わない夢はある。だけど必ず、叶う夢があって、それは綺麗に咲かせることができる。

“看護師になること”という、叶わなかった夢は、小さなわだかまりとなって、ずっとわたしの心に残り続けるだろう。だけど、そのおかげで叶えられた夢があるってことを忘れずに、今日も東京の片隅でひっそりと、だけど図太い花を咲かせられたらな。