高校一年生の夏休み。
「興味のある学校のオープンキャンパスに行ってレポートを書きなさい」
そんな課題が出た。 

あの時、どうしようかなぁという気持ちで頭がいっぱいになってしまったのを、今でも覚えている。というのも、当時の私は将来やりたいことを確定させられなくて焦っていたからだ。

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周りには、とりあえず大学に行こうという人が多かったけれど、私は大学に行きたいと思えなかった。「とりあえず」が嫌だったから。
やりたい仕事も定まっていない。かと言って、深く勉強したい教科が何なのかもわからない。キャンパスライフへの憧れもそんなに強くない。そんな状態で大学に行っても、ぼんやりと四年間過ごして終わってしまう。そう思ったのだ。当時の私には、四年間は無目的に過ごすには長過ぎる時間に感じられた。

そんな時、ふと思いついたのが舞台照明だった。
演劇部だったあの頃の私は、照明機材を扱うのが楽しくてしょうがなかった。性格的に裏方仕事が向いていたのだと思う。綺麗な色の光で舞台を華やかにできるとわくわくしたし、客席からきちんと役者の顔が見えるように調節するのもやりがいが感じられた。覚えることが多くて大変だし、技術も必要だから休憩時間返上で練習しないといけなかったけれど、照明を担当して良かったと心の底から思っていた。
そうだ、私には照明があるじゃん。

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あの時私は、その考えにすぐ縋りついた。ようやく、夢が決まった。目指すものができた……。本当に照明技師になりたいのかと考えるよりも先に、ただ安堵したのを覚えている。

そして、私は都内の専門学校の舞台照明学科のオープンキャンパスに行くことに。
先生も在校生も親切で、色々な機材を触らせてもらって楽しい時間を過ごした私は、「これが私の天職だ!」と勝手に舞い上がっていた。でも、先生の一言で私は現実に引き戻された。

「舞台が大好き。その気持ちを持ち続けたいのなら、これからもずっと観客でいたほうが良い。仕事にすれば、好きという気持ちは純粋なものじゃなくなる。それでも、この仕事をしたいかどうか。そのことを進路を決める前にじっくり考えてみて」

その先生のお陰で、私は部活と仕事は全く違うものだということに気が付いた。そんな当たり前のことにも気が付かなかったなんて。一旦、進路を決めるのは保留にしよう。焦りに駆られて安易な選択をしようとしてしまったことを反省した私は、自分自身にブレーキをかけて、じっくり将来を考えることにしたのだった。

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そして今、私は専門学校で小説やシナリオの書き方を学んでいる。
あれから色々な経験をして、自分と向き合ったうえで辿り着いた「物語を書く仕事がしたい」という夢。これは、あの時照明技師になりたいと思わなければ見つけられなかったものだと思う。あの時、「好きなことを仕事にする」ということの意味を考えなければ、きっと私は一歩を踏み出せなかった。

未熟で、浅はかで、現実を全く理解していないからこそ見た夢だったけれど。
あの夢があったから、今私は本当の夢に挑戦できている。