当時付き合っていた彼と迎えた初めてのクリスマス。彼とは付き合って1年ほどで、非常に穏やかな交際を続けていた。彼がディナーの予約をしてくれるとのことだったので、私は彼へのプレゼントだけ用意して当日を待った。

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クリスマス当日、私は仕事を終えて待ち合わせ場所へ向かった。行き先は聞かされていなかった。彼について行くと、到着したのはホテルのレストランだった。

そこは結婚式や披露宴も行っている新しいホテルで、彼のベタな選択に特別ときめくわけでもなく、「へぇ~」くらいに思っていた。私達は好みが合うわけでもないし、彼のセンスが秀でているわけでもなかったので、こうなることは予想の範囲内だった。とはいえ、せっかく選んでくれたのだし、私は黙って彼の後についていった。

まず案内されたのは、レストランに併設されているチャペルだった。そこではクリスマス限定で音楽隊の演奏が披露され、私達をはじめとするカップル達を、美しい音色が包み込んだ。

その後私達はレストランでコース料理を堪能し、プレゼントを交換した。彼は私にマフラーをくれた。私がいつも黒い服ばかり着ているから、優しい色味のものを選んだとのことだった。

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絵に描いた様な完璧なクリスマスデートだった。料理は美味しかったし、店内のお洒落な雰囲気は素敵だった。それなのに私は正直なところ、チャペルで演奏を聞いている時からずっと眠たかったし、なんなら少し寝ていた。その後の会話で眠気が覚めることもなかった。

あの色のマフラーを差し色として使うために、私が結局また全身黒い服を着ることになるということを、彼は知らないだろう。
一人になった帰り道、私は真顔でイヤホンを装着し、爆音でロックを聴きながら足早に帰宅した。

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後日、私は大学の先輩と食事に行くことになった。彼はどことなく私と性格が似ていてノリも合う、一緒にいて楽な人だった。かといって彼に恋愛感情を持ったことはなく、お互いさっぱりとした関係なのが、居心地が良くて好きだった。

私達は駅からだらだらと歩き、ちょうど営業していた全国チェーンの居酒屋に入った。夕方4時からビール片手に、近況報告や思い出話に花を咲かせた。いけすのあるごちゃついた店内で、変な時間から酒を飲んでいると、頭が悪くなった気がした。

それに加えてくだらない話で大笑いして、「今の私達は”学生の頃なりたくないと思っていた大人”そのものだねぇ」なんて言って、また腹を抱えて笑った。
帰り道、私は意味もなくひとつ手前の駅で降りて、懐メロを聴きながら夜道を歩いた。

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その居酒屋ではお洒落なコース料理は出てこないし、流れている音楽は有線のJ-POPチャンネルだった。それでも私は、話の合わない彼氏と高級レストランで食事するより、気心の知れた友人と安酒でゲラゲラ笑っている方がずっと楽しかった。

もちろん、クリスマスのデートプランを一生懸命考えてくれた彼には感謝している。ただ、私とは合わなかった。それだけだった。
結局のところ「どこに行くか」より「誰と行くか」なのだ。

安い居酒屋でも、ファミレスでも、そのへんの公園でも、「あなたとだったらどこだって楽しい」と思うことができる相手を、私は大切にしたい。