「血、大丈夫ですか?」先輩が私に声をかけた。爪の甘皮あたりに血が流れている。
「あ、大丈夫です〜」とヘラヘラ答えたが、内心「指先の血、見られちゃった」と軽くショックを受けた。なぜなら、私が無意識かつ意図的に流した血であるからだ。

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私の癖は指先の皮膚むしり。物心がつく前からの癖だ。指のささくれや爪と指の間の皮膚をいじってしまう。幼い頃は爪もよくかじったり、長すぎる爪に切れ目を入れて傷つかない程度に裂いていた。正直、今でもセルフ爪切りはたまにやってしまう。

母から「やめなさい」と何度も言われ続けてきたのだが、幼い子ども、特に私はそう言われると逆に言うことを聞かず、直そうとしなかった。周りにも爪をかじっている子どもが見られたから尚更だ。

ある程度年齢を重ねてきて、指先いじりをする子が見られなくなった中でも、私は皮膚いじりを止めることができなかった。高校生の頃、改善するためにドラッグストアでネイルオイルを買ってみたが、指先のベトベトする感覚が不快で、長続きしなかった。大学生になり、飲食バイトで皿洗いや掃除をするようになると、素手で水に触れる機会が大幅に増え、私の手はさらに荒れていった。冷たい水のせいでできたささくれを見ると、なぜだか触りたくなってしまう。そして、むしる。その繰り返し。

社会人になった今も、まだ克服できていない。そんなわけで、私の皮膚むしり歴は約30年だ。

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周りの大人の中でも、私と同じ癖を抱えているかもしれないと知ったのは20代前半の頃。とある女性芸能人が「皮膚むしり病」を持っていると告白した。皮膚むしり病は、文字通り、かゆみがなくても自身の皮膚をむしってしまう病気のことだ。

この事実を知って、思ったことは二つ。一つ目は、無意識で皮膚をむしってしまう行為が病気として定められていることに驚いた。また、これは皮膚の病気ではなく、心の病気であるとのことだ。自身が感じたストレスや不安を落ち着かせるために、無意識に皮膚をむしる行為に走ってしまう。

私は腑に落ちた。確かに私は、ストレスが溜まっている時に皮膚をむしっている。作業が捗らない時、目上の人間から説教を浴びている時、自分の言動を顧みて後悔している時。振り返ると、幼い私は人目を気にしたり、大人の機嫌を伺うことが多かった。幼い頃の皮膚むしりはそれが原因だったのだろう。私は今まで、理由があって、皮膚をむしっていたのだ。

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二つ目に、この癖に悩んでいるのは私だけではない、という事実に少し安心した。容姿に人一倍気を遣う女性芸能人にとって、この告白は勇気がいることだっただろう。しかし、彼女のニュースのコメント欄には、特に女性からの、共感の声が数多く押し寄せていた。

「誰にも言えない悩みだったけど、自分だけじゃないと知ってよかった」「病気のせいだと知って安心した」
私も同感だ。こんなに多くの人が悩み、向き合っている。私だけじゃないんだ。長年ずるずると引きずっていたバスケットボールくらいの大きさの悩みが、少しずつ小さくなった。

自分なりに、この癖に向き合ってみよう。このエッセイを書きながら、その気持ちがさらに強くなった。

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ストレス由来の行為であるため、その刺激に過敏にならないようにしよう。周囲の雑音が気になったらイヤホンをつけたり、目の前のことに集中すればいい。入浴やストレッチなど、自分が心地いいと思う習慣を心がける。皮膚むしりの癖だけでなく、日常生活全体がプラスの方向に動くだろう。

そして、一度挫折したネイルオイルをまた試してみたい。最近、華やかだけど清潔な蓮の香りがするネイルオイルを見つけ、購入を検討している。香水をまとうように、ネイルオイルをつけて指先を労わりたいと思う。マニキュアも久々に塗りたい。色づいた指先を見るだけでテンションが上がるだろう。その爪が綺麗に整っていたら、さらに気持ちが高まるはずだ。

この癖が直るかどうか、あるいは、この病気が治るかどうか、湯葉メンタルの私にはわからない。でも、どうせ向き合うなら仲良く付き合っていきたいと思う。