峯岸みなみ「居酒屋で出会った若いカップル(仮)から考える自尊心を守る方法」
元AKB48の峯岸みなみさんのコラムニストデビューから早3年。「文才に驚いた」「読みやすくて一気読み」と話題の連載がパワーアップして戻ってきました。“できれば明日も褒められたい”と、「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」という峯岸さんが、アイドル卒業、ご結婚を経て“明日の自分に褒められたい”と思うようになったきっかけとは?峯岸さんの頭の中をのぞきます。
元AKB48の峯岸みなみさんのコラムニストデビューから早3年。「文才に驚いた」「読みやすくて一気読み」と話題の連載がパワーアップして戻ってきました。“できれば明日も褒められたい”と、「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」という峯岸さんが、アイドル卒業、ご結婚を経て“明日の自分に褒められたい”と思うようになったきっかけとは?峯岸さんの頭の中をのぞきます。
いつもこのコラムでは自分がふと思ったことや、抱えている悩みなど、自分が軸になっている出来事、いわば少し手の込んだ日記みたいなことばかりを書いていますが、前回の投稿から4ヶ月、皆さんに聞いてもらいたくなるような心の変化はこれといってなかったので、お節介ながらも先日居酒屋で見た若いカップル(仮)について考察してみたいと思います。
一仕事を終えたその流れで、お世話になっているスタッフの皆さんとお酒を楽しむ私達の隣のテーブルに、カップル(仮)は座っていた。男性の方は目鼻立ちがはっきりとしたヤンチャ風な男前で、向かいに座るのは、その男性の三歩うしろ……いや実際に二人は座っているのだからあくまでイメージに過ぎないけれど、男性の三歩うしろを歩くような雰囲気の見た目はギャルだが控えめで可愛らしい女の子だった。
少し、いやだいぶ前から私に気づいていたと思われるヤンチャ風男前が「やっぱ、本物可愛いっすね」とかなんだったか、慣れた感じで声をかけてくれた時、そのテンションが初対面の私達の間にはふさわしくない質感である気がして、褒めてもらったことを自覚するよりも先に、ちょっと面倒くさそうだなと思った。
でもまぁ何も嫌なことはされていないわけだし「ありがとうございます。お二人はカップルですか?」と女の子を巻き込む形で返事をした。すると男性は「いや、カップルというか、まぁ……」という歯切れの悪い言葉を返してきたので私は一瞬でこれはまずいことをしてしまったなと思った。
ここからは私の勝手な妄想に過ぎないのだが、きっと2人は友達以上恋人未満の関係を維持したまま、こんな風に時間を共に過ごしている。その関係の維持を望んでいるのは男の方だけで、女の子は男に惚れているのではないか。そして男はそのことに気付いてる。仮にそうだとすれば、わざわざハッキリと言葉にしなくてもいい微妙な線引きを私の何の気なしの一言で浮き彫りにさせてしまった可能性はないか、そのことで女の子は傷ついていないだろうか。それだけが気になった。
では、どうして女の子が男に好意を持っていると半ば決めつけて話を進めているのかというと、その答えは男の言動にあった。 男は顔面こそかっこいいと言われる部類であったものの、最初に接触したその瞬間から残念な部分が多々あった。
私に対して「一杯奢るんでなんかAKBの曲歌ってくださいよ~」と言ってくる、のはまだいい。全然いい。タレントは求められているうちが華だと思うし、実際に歌うと、ちゃんと盛り上げて喜んでくれたしね。
しかし、いただけなかったのは所々で女の子を下げるような発言をすること。私が僭越ながらリクエストにお応えして「ポニーテールとシュシュ」を歌おうとした時、女の子に「一緒に歌いませんか?」と声をかけると、男の方が食い気味に「歌え歌え!」と彼女にマイクを渡し、私に向かって「こいつ歌下手ですけど、すいません!」と声をかけた。
少し酔っていたこともあり、細かいことまでは覚えてはいないけれど、それまでも何度か下げ発言を繰り返していた男にムッと来てしまった私は「ちょっとーーー!さっきから自分が連れてる女の子下げるようなことばっか言わないでよーーーー!」と、あくまで空気が壊れないぐらいの温度で主張した。
他人に不適切なテンションで話しかけたり、自分のことを下げたりするような発言をしてくる男。こんなの好きじゃなきゃとてもじゃないけど一緒にいられないよと思った。女の子はとても丁寧な感じの人だったから、彼への違和感に気づいていないはずがない。好きだからそばにいて、嫌われたくないから何も言えないんじゃないかと思ったわけだ。私の記憶の中の女の子はどの場面も申し訳なさそうに微笑んでいたから。
そんな二人に思いを馳せて文章を書いていたら、とある日のワンシーンが急に脳内に浮かび上がった。昔ちょっとだけ好意を持っていた、現在でいうところの“すきぴ”がいた。その頃私は目の下に赤っぽいシャドウを入れるメイクにハマっていて、すきぴはそれを見ると決まって「なに?ものもらい?笑」といじってきた。
本来であれば、人が可愛いと思ってやっていることに対して0点のリアクションだと思う。でもその時は嬉しかった。興味を持って、言葉をかけてくれるだけで胸が高鳴った。彼に会えそうな日は意識して赤いアイシャドウを施していた。そんな過去の自分を思い出すとなんとなく惨めな気持ちになる。今よりもっと自信がなくメンタルおブス期の私。
結局何が言いたかって言うと、あのね、いいよと。ちょっとチャラいぐらいは別にいいし、タレントに変なテンションで話しかけちゃうのも全然いい。ドヤ顔で 「ドライフラワー」を歌っちゃう感じも、別のテーブルの初対面の男の子と腕絡ませながら友情イッキしちゃうのも何だっていい。
だけど女の子達よ、いや女の子に限らず人々よ。自尊心を傷つけてくるような人がそばにいるんだとしたら、一目散に駆け出して離れよう。もちろん言葉のチョイスを間違ってしまうことは誰にでもあるし、私も緊張や人見知りで他人に対して間違った絡み方をしてしまったことがある。ただ理不尽に、意図的に、自尊心を傷つけられたと感じたらそれは終了の合図。それが自分を好きでいながら健やかに毎日を送れる秘訣だと思う。それが、今回私が言いたかったことです。
あー。私の考察は全部お節介の的外れで、男の子の反応は全部照れ隠しで、二人っきりの時はベタベタの仲良しカップルだったらいいなぁ、と願いながら。
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