峯岸みなみ「一度は逃げたバラエティー番組。でも笑いをとる自分が好きだと気づいた」
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
先週の土曜日、私の中の意識が大きく変わる出来事がありました。フジテレビ『まっちゃんねる』という番組内の1コーナー「女子メンタル」という、女性タレント同士が笑わせ合う企画にて、まさかまさかの優勝を果たしたのです。
普段、出演番組の放送後にエゴサをしてみても、やれ“嫌い”だ、やれ“整形”だと辛辣な言葉が並ぶツイッターが、その日だけは称賛の嵐。友達からも、しばらく会っていない人からも労いの連絡をもらい、翌日には新しい仕事のお話が何個も舞い込むほどの反響っぷりでした。そうして思い出したんです。昔は人に笑ってもらうことが好きだったし、笑いに対して貪欲だったなと。そう……昔は。
「女子メンタル」という戦場で、沢山の人に笑ってもらえた今だからこそ言葉にできると思った、私の数あるコンプレックスのひとつである“バラエティコンプレックス“を皆さんにお目にかけたいと思います。
それはAKB48がまだ国民的アイドルと言われる前、容姿もパッとしない、人気もそこそこの私が、唯一自分の存在意義を感じられる場所がバラエティ番組の収録でした。カメラの横で腕を組んで見守る大人が笑ってくれるのが嬉しくて、なんでもした。一際大きくリアクションをした。変顔だって躊躇しなかった。アイドルにしては身体も張ったし、テロップになるような発言の研究だってした。頑張れば頑張るほど起こる笑いは、他に何も秀でていない私にとって麻薬のようなもので、それを求めるあまり人を傷つけるようなことを言ってしまったこともあったし、自分の中の本当よりも、求められているであろうバラエティ的正解を追い続けていました。
そんな方向の合っているかわからない努力が実り(?)いつからか『AKB48のバラエティ担当』という肩書を手にした私は、それが小さな小さな世界の中でのみ通用する称号だとは知らずに過ごしていました。私なりに一生懸命だった。器用にこなせているつもりでいた。その“つもり”が、嫌な臭いとなって嗅覚の鋭い人を刺激してしまっていたのかもしれません。
「面白くもないくせにアイドルが芸人の真似事をするな」
ここしかないと思った居場所で、自覚もないまますくすくと伸びてしまった私の鼻は、出どころのわからない言葉や風潮にあっさりへし折られました。笑いをわかっている風なアイドルはよそで嫌われる。その意識が私のバラエティでの立ち振る舞いを分からなくさせていったのです。
自分のことを面白い側だと思っていた自己評価と他者からの評価にずれが生じ、焦って、空回っては炎上を繰り返し、人から嫌われてしまう。負の連鎖が怖くて、私はバラエティの世界で上を目指して戦うことを辞退しました。その証拠にマネージャーさんに「バラエティは向いていないと思うので控えたいです」と伝えていました。方向性を変えたといえば聞こえはいいですが、私は逃げたんです。
他に何かできるわけではない私がバラエティに対しても消極的になれば、メディアの露出が少なくなっていくのは当然の結果でした。数年前によく共演していた女性タレントさんが確実にステージを上げ、アシスタントMCなどで活躍しているのを目の当たりにするのが辛くなって、テレビも観なくなりました。たまに出る番組も事故を起こしてしまうぐらいなら無難でいる方が平穏を守れると、前のようには頑張れなかった。「私は芸人さんじゃないから」と言い訳をして。
露頭に迷っている真っ最中に、松本人志さんから届いた「女子メンタル」への招待状。第一線にいない私になぜそれが回ってきたのかわかりませんでした。共演の皆さんの姿がひとりずつ明らかになってくと、そこには案の定、今をときめく女性タレントさんばかり。ファーストサマーウイカさん、朝日奈央ちゃん、ゆきぽよちゃんの同世代組が、よく行く居酒屋の常連同士のようにフランクな挨拶を交わしている中で、自分の場違いさに消えてしまいたいとさえ思いました。
初っ端からライフポイントは静かに、確実にすり減っていき、身動きが取れなくなっていた私の中の何かが弾けたのは、ゆきぽよちゃんが私の坊主の写真を出した時。これまで、何度も何度も坊主をいじられては起こる笑いに、何もできないよりはいいだろうと寄りかかり、何年経っても話のネタがそれしかない自分に苛立ちを感じていました。
私を、そしてAKB48を応援する人たちはそれを望んでいないのに、私はそれ以外に何もない。いじってもらえるだけ有難いことなんだ。でも……。今までなるべく目にしないようにと避けてきた自分の無残な姿と真っ向から向き合った時、そんながんじがらめの葛藤が吹っ切れる音がしました。……そこからはあまり覚えていません。
って、どこかで聞いたことがあるような言葉ですが、それぐらい無我夢中でした。優勝はもちろん嬉しかったですが、それ以上に、ずっと怯えていたバラエティの現場で自分の力を出し切れたことが嬉しくて、ちょっと泣きそうになりました。
有難いことに視聴者の方から「第二弾があったら、ディフェンディングチャンピオンとしてぜひ出場してください」という声を多くいただきましたが、正直、今回全てを出し切ってしまったので、私の引き出しはすっからかんです。その代わりに、真摯に物事と向き合えば、テクニックがなくても人の心は動かせるんだという大切な気付きを引き出しに詰めたら、少し強くなれた気がしました。
「嫌いだったけど好きになった」とか「いい印象がなかったけど見直した」なんて言葉を沢山いただき、これまでの好感度の低さに少し胸を痛めながらも、やっぱり嬉しくて、全力で笑いを取りに行く自分は嫌いじゃないということを思い出せた。
若かりし頃は今と同様に繊細で、今よりもっと視野が狭かった。耳に入る言葉を全て100で受け止めて、必要以上に傷ついてしまっていたね。だけどもう大丈夫。
特別じゃないし、面白い人間でもない私だけど、気合いがあれば人を笑顔にすることができると身を持って感じられたから。
限られた者しか受け取ることのできない招待状は、さまざまな言葉で臆病になってしまった私に、逃げずに戦う素晴らしさを教えてくれる運命のカードとなりました。
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◇放送時間:木曜日21:00-21:30
◇出演者:峯岸みなみ(AKB48)
AKB48の1期生で、朝日新聞の女性向けWEBコラムサイト「かがみよかがみ」内でコラム連載を持つ峯岸みなみの新番組がスタート!アイドルとして15年の活動を経て、30歳という年齢が見えてきた一人の女性としてリスナーと本音で向き合う30分の番組です。一日の終わりくらいちょっと褒められたい。そんな思いを共有しませんか?
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
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