以前親密な関係だった彼との思い出のひとつに、言葉を介さない傷つけ合いがあった。
これは直接顔を合わさなくても、電話で声を発さなくてもコミュニケーションを取れるようになった現代の負の産物なのかもしれない。
ずばり、SNSを媒介にする傷つけ合いだ。

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彼と出会って間も無く、私は偶然彼を他人のインスタの投稿写真の中に見つけた。
そのアカウントは、カットモデルで有名なインフルエンサーのもので、彼を朝空港に送っている姿、2人でカフェでまったりしている様子などが数回上がっていた。
私は何時間もかけて数年前まで振り返り、半年前から数ヶ月前に頻繁に投稿されていることを把握した。

投稿の内容では、この美しいインフルエンサーが元カノだったのか、それとも刹那の関係だったのか、はたまた純粋な友情なのかはわからなかった。
モヤモヤするのは良くないと感じて直接彼に聞くと、少し前まで頻繁に会っていた「友だち」という言葉が返ってきた。
ふーん……。そう返しておいた。

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また違う夏の夜。
彼の宿泊先に向かっている電車の中で、彼より宿泊先に来るのではなく近くのファミレスで待っていてくれと急に連絡が入ったことがある。
言われるがままに待っていると、疲れ果てた様子の彼がやってきた。

彼の説明によると、以前関係のあった女性が彼の宿泊先で待ち伏せしているのだという。
私は、その女性も理由があって会いにきているのだから会話をすることを勧めた。
彼は気まずそうに、でも結局私を置いてレストランを出ていった。

本当は聞きたいことはいっぱいあった。
この時の彼の宿泊先はホテル。どうして一時的かつ偶然の宿泊先をその女性は知っているのだろう。
そもそも深夜のホテルのロビーで待っていることなどできるのだろうか。ホテルのスタッフに不審に思われないのだろうか。

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そして彼から朝方に届いたメッセージに胸をえぐられた。
still with her.  super exhausted -まだ彼女といる。げっそり
私と彼のやり取りは英語で、iPhoneからの送信は文頭が自動変換で大文字になる。
しかし、彼から送られてきたメッセージは、文頭が小文字だった。
つまり、部屋のパソコンから送信しているということ。
部屋にあげたんだね。疲れているのは本当に会話のせいなのかな。

それ以外にも細々と、彼のタイムラインに頻繁にコメントする綺麗な女性たちに嫉妬したり、明らかに送信先を間違えて送られてきたメッセージを既読無視したり…。例を挙げればキリがない。

私自身も感情が爆発した時は、彼からのメッセージ通知をミュートにしたり、アイコン画像を消したりと怒りを露わにした。
こうしてお別れをするまで、6年以上も言葉を介さない傷つけ合いをした。

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今振り返って思うことは、彼に試されていたし、そして私自身も彼を試していたということ。
SNSは、制御しない限りは自動で情報が入ってくる。
対処する術、自分のスタンスの確立がない限りは、常に感情を揺さぶられてしまう。

でも、実はマイナスな面ばかりではないとも今になって思う。
基本的に彼は1年の半分を海外で過ごしていたために、SNSがあったから、直接のメールや電話をしなくてもお互いがお互いの現状を理解できた。
そして気になった情報を見つけたら、ここぞとばかりに直接コミュニケーションをとるきっかけにもできた。

今の時代にSNSを抜いて生きていくことは難しいだろう。
だからこそ、メリットとデメリットを理解し、自分はどう向き合っていくのか考えながら利用するべきなのだろう。
それでも、今現在関係のある人がいるのに、違う女性を深夜に部屋へあげるのは避けた方がいいとは思うが。なんでもSNSのせいではないのも恋愛の難しさです。