私は入社2年目のメーカーで働く会社員。会社によってはコロナ禍を経て、社内で飲み会はやらなくなってしまった会社も少なくないかもしれないが、私の会社は飲み会が好きな人が多く、今でも営業社員は毎週金曜日の夜は大抵飲み会の予定が入っている。
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客先との飲み会もあることにはあるのだが、飲み会での人付き合いが社内での仕事の進めやすさにつながると信じている社員も多いため、上司や同僚などの社内のメンバーでの飲み会も大切にしている人が多い。
対して私はおとなしい校風の大学に通っていたため、大学時代はほとんど飲み会に参加したことがなかった。世間的に言うと「飲み方を知らない」状態で、飲み会好きの会社に入社したわけだ。入社の初日から、飲み会特有の気の使い方が分からず苦労をした。
友達でもない職場の人たちと話を合わせるだけでも大変なのに、その上おつまみを取り分けることや、周りの人のグラスが空いたら、次の1杯を注文するか尋ねることなど、気を使わなければいけないことがあまりに多くて、飲み会がある度に仕事以上にぐったりとしてしまっていた。
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入社してすぐに、少し大きな飲み会があった。普段仕事を教わっている直属の上司や先輩だけではなく、今まで話したこともない隣の部署の上司も出席する飲み会だった。たまたま席が近くなった、初対面の50代の部長に「君はお酒が飲めるの?」と聞かれた。
私はお酒が飲めないわけではないが、無理にお酒を勧められても対処に困ると心配になり、「そこまででもないです」と言いかけた。その時、私の隣の席に座っていた、年の近い女性の先輩社員が「結構飲める子なんですよ!」と取り繕った。なぜそんなフォローをしたのだろう、とその時は疑問に思った。私は彼女とは一緒にお酒を飲んだことがないはずだったのに。
その答えは、だんだんと分かっていった。どうやら、飲酒量が多いということは、褒められるべきことらしい。誰に教えられたわけでもないけれど、飲み会に参加するうちに、次第に分かってきた。
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飲み会に数多く参加し、人から勧められたお酒は断らずに飲んでいるうちに、私も「お酒が飲めるんだね」と認められるようになってきた。そして決まって続く言葉は「大人しそうだと思っていたけど、ガッツがあるんだね」。そう言う時の人の表情は、大抵どこか嬉しそうだ。多少なりともお酒が飲めると言うことそれだけで、称賛に値するらしい。
もちろんアルコールの許容量は体質に大きく依存し、性格が頼もしかろうと大人しかろうと、本来は関係はないはずなのだが。当然、お酒が飲めるかで性格を推し量られるのは、女性である私だけではない。男性社員も同様に、いや女性よりももっとシビアに、お酒が飲めるかが見定められている。
若手の男性社員はお酒をたくさん飲み、はしゃいで飲み会の席で面白い言動をすると、高年齢の社員から「狂っている」と評される。当然、ここでいう「狂っている」とは、「面白い」の最上位形にあたる、この上ない褒め言葉だ。
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お酒が飲めることが称賛に値することだと気がついた若手社員の中には、くだらないからと飲み会に出席しなくなる人も一定数いる。酒を飲んでいるフリをして床にこぼす技を自慢げに教えてくれた先輩もいた。
それでも少なくない若手社員は、できるだけたくさんお酒を飲むようにと無理をするようになる。飲み会の帰りに嘔吐をしたとしても、翌日二日酔いになったとしても。真面目な社員に限って、身を削って無理をして飲んでいるように思える。
元々、「お酒が飲める人」に特別な価値を感じたことは一度もなかったけれど、無理をしてまでお酒を飲む先輩方がいるということを目の当たりにするうちに、一層「お酒が飲める人」に与えられる称賛に疑問を持つようになってしまった。
いくら先輩方が体を張って盛り上げようとしていても、「この人、無理をしているのではないか」という考えがよぎって、飲み会を心から楽しめない。たくさんお酒を飲む若手社員を可愛がる年配社員の心境が理解ができず、怖くなってしまうこともある。かと言って、周りの目を人並みに気にしてしまう私は、飲み会に誘われたら断ることもできず、昨日も楽しそうなふりをしてビールを飲んでしまった。