普通に恋愛して、普通に結婚するものだと思っていた幼少期の私。
26歳の私は、同性愛者にも異性愛者にもなりきれず、結婚願望もなく、恋愛だってしていない。でもアセクシャルでもない。

こんな問いは、あまりされないだろうけれど、「あなたのセクシュアリティは？」と聞かれたら、「パンセクシュアルです」と答える。
パンセクシュアルとは、男性も女性も恋愛対象だし、それ以外の性別の人も恋愛対象だ。性別とは関係なく人を好きになる、という感じ。でもこれって、わざわざ「パンセクシュアルです」っていうことなのかな？と思っている。
人を好きになるとき、異性が好きだろうが、同性が好きだろうが、性別だけで判断するだろうか？男性だから、女性だから好きになるんじゃなくて、「この人のこんなところが好き」とか、「自然体でいられる」とか、「面白い」とかいろいろな理由があるじゃない、と思うのだ。
……などと説明したり、ついでに自分の考えも言ったりするのも面倒なので、「バイセクシュアルです」と答えるようにしている。

バイセクシャルの私は次第に恋ができなくなっていった

私が、バイセクシュアルだとはっきり自認したのは大学生のころ。
高校のころから、なんとなく気づいていたけれど、その頃は男性が好きだったから異性愛者だと思っていた。
きっかけは、大学のジェンダー論という講義だった。講義で学んでいくうちに興味がわいて、自分でも調べるようになり、自分はバイセクシュアルだったんだと気づき、ちょっとだけほっとした。
当時は、いいなと思う男性もいたけど、とても仲良くしていた友人に、好意を抱いていたからだ。
その友人は女の子で、四六時中話していたいし、家に帰ってからもずっとLINEをして、寝る前にはずっと通話していた。
その子が別の女の子と、隣の席に座って楽しそうにしていると嫌だったし、明らかにその子狙いの男性が近づくと、ちょっとだけ拗ねた。
決してその子と趣味が合うわけでも、価値観が合うわけでもなかった。ただただ、恋をしていた。
4年間の長い片想いから、学生時代はどっちかというと、レズビアンよりのバイだった。
結局、その子には振られてしまったけれど、なぜか今も親しくできているのは、やっぱりお互い居心地が良いからだ、と思いたい。

そして社会人になってから、4年間の恋で燃焼しきってしまったのか、恋愛をしなくなっていた。そんな私をみかねてレズビアンの友人が、ミックスバーへと連れて行ってくれた。
たしかに新しい出会いもほしかった。何より、学生時代とは違って、気軽にカミングアウトできず、私がわたしでいられる場所がほしかったのだ。

マイノリティの自分に気付いて…

友人に連れられて行ったのは、ステージがあるバーで、お酒を飲みながら、女装家のダンスや男装家の早着替えや、ポールダンスなどをみて楽しむ場所だった。
しかし、ここはあくまでミックスバー。
運悪く、どこかの会社の2次会で、たくさんのサラリーマンたちが騒がしくしていた。その一部の人たちに友人が絡まれてしまった。（友人はとっても可愛いので、お喋りしたい気持ちはよくわかる）
ついでに私も一緒に同席したが、「LGBTの理解を深めたくて」などと言いながら、体を触ってくる中年サラリーマンが隣だった。最悪である。
まだ何も言っていないのに、どうして異性愛者だと思ったの？と言いたかった。
しかし、私は異性愛者でもあり、同性愛者でもあるので、その言葉を飲み込んだ。とても居心地が悪かった。

すぐにサラリーマンたちは去っていき、落ち着いて二人で飲んでいたら、友人の知り合いたちが声をかけてくれた。
気さくで、いい人ばかり。でも、そこにバイの人はいなかった。

なんだかとても寂しかったことだけ覚えている。

勝手に寂しくなっているだけだけれど、やっぱり私は、どちらにもなれず、どちらかの仲間にも入れないことに、気が付いてしまった。

カテゴライズのできない私ができること

学生時代、バイセクシュアルについて調べていた際に、バイセクシュアルへの差別についても触れた。
差別といっても、なにか大きな事件が起きたとか、そういうことではない。
同性愛者にも異性愛者にも、どちらにもなれないことで、どちらのコミュニティからも排除される存在であり、バイセクシュアルだと言い出せない人が多いという話だった。

本当にそうだった。
私は、これから、女性と恋愛したいときはレズビアンになり、男性と恋愛したいときは異性愛者にならないといけないんだと感じた。
そしてそのコミュニティにいるときは、必ずどちらかの“わたし”にならなければならない。

嘘ではないけれど、本当になれない私で恋愛をする。
そう考えるだけで、出会い系アプリも続かなかったし、出会いを求めてバーに行くこともなくなった。

最近はもう恋愛もしなくなった。少女漫画や恋愛小説は読むし共感もできるが、誰かを好きになるような胸の高鳴りがない。もしかしたら、アセクシャルなのかもしれない、とも思っている。
そういえば、バイセクシュアルの研究をしている際に、人のセクシュアリティは変化していくという考え方があったな、と思い出して、そんなことを考えるようになった。
たしかに、実体験として、好きな性別が変化していく感覚はわかる。だからこのまま、恋愛感情も抱かない状態が続く可能性もあるな、と。
でも、生まれてからずっとアセクシャルだったわけではないし、私の場合は一時的なものだと思う。移り変わるセクシュアルでは、きっとそれも当てはまらなくなってしまう。
やはり、あえて、今の自分を定義しようとするなら、性別も概念も全部超えて、人を好きになりたいパンセクシュアルなのだ。

そうして何者にもなれない私のまま、“私だけ”の恋愛をしていけるようになりたい。
そうなれるように、まずは、カテゴライズできない私を、わたし自身が好きになる努力をしていこうと思う。