高校を卒業して、私は親友と大分に旅行に行った。
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初めて親なしで新幹線に乗った。
自分達で探した安いホテルに荷物を預けて、うみたまごという水族館に行った。名物の冷麺を食べ、ホテルの露天風呂に浸かった。夜は1時を過ぎるまで酢橘の風味がするスナック菓子をつまみながらベットの上でとめどなく色々な話をした。
2日目は湯布院に行った。空が高くて澄んでいた。お店がたくさんあって、綺麗な雑貨、美味しそうなスイーツ、まさに女子の町といった風情だった。
その日の夜はとり天を食べるべくお店を探していた。場所や値段の関係でなかなか見つからず、結局ホテルから程近いお店で、メニュー写真がたくさん貼られていて分かりやすいお店にした。入ると、外観にそぐわずカウンター席のみの大人の居酒屋といった雰囲気で、眉間に皺のよった色黒の方が「らっしゃい」と渋い声で奥の席を指し示した。
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場違いの場所に来てしまったという居心地の悪さを感じながら、かといって引き返すわけにもいかず、店主の目線を遮るように立てたメニューの内側で顔を寄せ合って2人でこそこそとどれにしようかと相思案した。だが、外で見たようなとり天の定食はどこにも見当たらずあたふた。すると、店主の方が見かねて声をかけてきた。
「じゃあとり天大皿でばっと出してご飯つけたらええか」
「あ、じゃあそれでお願いします…」
「飲みもんは?」
「お酒飲めないので大丈夫です」
「1人一杯は頼んでもらうようにしてるからウーロン茶とかもあるしソフトドリンクで」
「じゃあウーロン茶で…」
お店には誰もいないのに、あまりにバツが悪くて喋ることもできずに2人してただとり天を揚げていく様子を眺めていた。
食欲をそそるジュワジュワという音が聞こえてきて、不安だらけの心に、少し期待と楽しみが混ざってきた頃、それは出された。とり天は3人分はあるんじゃないかというほど大皿に山盛りだった。ご飯と、おまけでつけてくれたお味噌汁もたっぷりとあって、今度は量に気圧される。
それでも2人同時にいただきますと大きなとり天にかぶりつくと、普通の天ぷらとは全く違うジューシーで深みのあるおいしさに夢中になり、さっきまでとは違う意味で無言になって食べ続けた。
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食べている途中で1人男性の方が入ってきた。日本酒をちびちびやるうちに酔いが回ってきたのか店主の方とおしゃべりをしていた。
「ああいいねー。また出張で来たら飲みにくるからよろしくな」
名刺を交換して私達より一足先に居酒屋を出る姿は、いかにも大人といった雰囲気でなんだか格好良かった。
「私達もお酒飲めるようになったらまた来たいね」
「ご飯じゃなくてお酒でこのとり天また食べよう」
小声でひそひそ約束をした。
「まいど!」
入った時はあんなに怖かった店主の明るい声と、苦しいくらい満たされたお腹に温かくなって、2人で顔を見合わせて、今後は遠慮なく思いっきり笑いながら「大学はお互い県外だけど、お酒が飲めるようになったらまた!」
そう笑い合いながら、今はまだ似合わない夜の街をホテルに向かって歩いたのだった。
あれからもう1年半。私達はもうすぐ約束が果たせる歳になる。