2年ほど前の私の誕生日旅行について話したい。
正直、これはとても面白くて、あれ以来旅行のたびに同じような経験をしているから。

私は、自分の誕生日に1人でどこか知らない場所へ行くことにしている。「1人で」というところが大切で、知らぬ土地で1人で過ごしていると、なんとなく今繋がっている人たちとの縁を一層大事にしようと思うのだ。誕生日は、個人的には今繋がっている縁に感謝をする日だと思っているので、毎年どこかへ行き誰かのことを思い、過ごしている。

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2年前の夏。梅雨があけていない時期に私の誕生日は訪れた。そしてこの日私は初めて岡山まで足を運ぶことを決めた。目的は1つ。市民科学館のプラネタリウムを見ること。あとはノープラン。

正直にいうと絶対に時間を持て余すだろうと思っていたが、知らぬ土地で日常的に過ごすのも悪くないとも思っていた。例えば映画館にいったり、ホテルでエッセイを書いたり、特別なことではなくていつも通りの生活を、いつもと違う場所ですることもきっと楽しいと思っていた。そんなことを考えている新幹線の中、ここから私の旅は軌道が変わっていく。

「お姉ちゃん、どこまでいくん?」
3列席の奥から関西弁らしいお兄さんの声が聞こえた。通路側に座っている私は突然の声かけに驚きながらも「岡山です」と何故か正直に答えていた。「岡山か、ええなあ。けど自分のほうが先に降りるから、姉ちゃんの前邪魔するわ、ごめんな」とお兄さんは私の緊張にまるで気づいていないように話を続ける。

聞くと神戸で降りるとのこと。話はそこで終わるかと思ったら、『もし神戸に行く機会があったら』という体で神戸の観光地を教えてくれた。新幹線のひとつ席が離れた状態という不思議な距離感で私たちは案外楽しく話をしていた。そうしているとあっという間に神戸に到着し、お兄さんは宣言通り私の前を通って「ほな、旅行楽しんで」と手を振り去っていった。

私はそこから岡山までぼうっと1人で考えていた。あの人お話上手だったな。その土地の人から聞く観光地は案外面白かった。

そうだ、今回の旅はせっかくノープランなのだから、その土地の人に観光地を聞いてみるのもいいなあ。うん、そうしよう。私の旅の軌道は、確実に変わっていった。

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岡山到着後、ホテルについてまず手始めにとエントランスにいる方に「夕食をどこで食べるか迷っているのですが」と聞いてみた。慣れているのだろう、地図と冊子を用意され、こことここがおすすめなど丁寧に教えてもらった。

私は丸がついたその地図と冊子を抱えて1度ホテルの部屋に入った。これはいい。楽しいぞ。その日の夜は、ホテルの方が教えてくれた鍋が美味しいお店に行った(これまた美味しかった)。

次の日、市民科学館まで時間があったため観光案内所に行き「図書館へ行きたいのですが」と問い合わせた。路面電車、バス、徒歩、いろんな行き方を教えてくれた。行きはバスで、帰りは路面電車を使ってみた。

図書館で岡山の歴史を学びつつ乗った路面電車で、1人の少年が声をかけてきた。「あのね、お姉ちゃん」「なに?」「僕はこの電車じゃなくて、キャラクターの電車に乗りたいんだ」小学校に通い始めたくらいの年齢だろう、母親がひどく謝ってきたが「問題ないですよ」と伝え少年と会話をつづけた。

何やら目的の路面電車があり、今日は朝から3往復しているらしい。お母さんの疲れた感じの意味がわかった。「次は乗れるといいね。お母さんと休憩も大切にね」と伝えると少年は満足そうに笑ってくれた。

お母さんがやっぱり恐縮したように謝罪をしてきたので、それではと「岡山の観光地ってどこに行けばいいですかね」と聞いてみた。すると母親は「やっぱり吉備津神社かしら」という。丁度図書館で、桃太郎の伝説を拝読したところだった。「ありがとうございます、助かりました」と言ったところで、私たちの電車は終点の岡山駅までたどり着いた。

すると少年の大きな声がする。「あれだ!」そう、少年が乗りたかった目的の電車が丁度到着していた。走っていく少年に追いかける母親、2人に「ありがとうございました」と大きな声で言うと母親がこちらにお辞儀をしてくれた。

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そこから私はもちろん、吉備津神社に向かう。道中、SNSの撮影をしているカップルと出会い、久しぶりにここに来たのだという地元の人にも出会う。

1人で旅をしているはずなのに、たくさんの言葉を発した私は不思議な気持ちになった。目当ての科学館にいく間も、帰りも、次の日も。その土地の人はとてもやさしく私に接してくれた。結果、とても温かい旅になった。

帰りの新幹線の中で、ふと思う。今繋がってくれている縁も十分大切にしつつ旅先での新しい出会いも経験したい。ああ、思わぬ形で私の誕生日旅行は一層特別なものになった。