私は東京育ちである。
産まれた病院は東京ではないが、生後すぐに東京に引っ越してきて以来、20年以上東京都で暮らしてきた。だから、「出身は?」と尋ねられると、「東京です」と答えているし、間違いではないだろう。
初対面の人に、自分が東京出身だというと「都会っ子」だとか「大都会に住んでいますね」とか、そういった反応が返ってくることが多い。しかし、東京という単語を聞いただけで、ビルが立ち並ぶような景色を思い浮かべるのは、間違いである。都会っ子と言われるが、そんなことはまったくないのである。
私は東京に住んでいるとはいっても、23区に居を構えているわけではない。23区外の静かな住宅地にいる。だから、家から星座も見えるし、家の周囲には畑がある。
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そのため、いわゆる「東京」は私には遠い世界の話に思えるのだ。東京というのは東京都を指す言葉でもあるが、いわゆる「東京」は「東京23区」のことを指している場合がほとんどなのだろう。出身地の話をすると、この東京都と東京23区の表すイメージの差をよく実感する。
確かに、私北海道に住んでいるんです、と言われたとしたら、その返答は「じゃあ雄大な自然の中で暮らしているのですね」となってしまうかもしれない。北海道と聞くと、豊かな自然、広大な畑、冬になれば一面の銀世界、といった景色を想像する。
それと同じことだろう。実際に、北海道でそういった生活を送る人もいるだろう。だが、そうでない人もいる、はずだ。(北海道に住んでいるみなさん、本当の暮らしはどうなのでしょうか?)
そういうわけで、23区外に住む私は、「東京」に距離を感じている。
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とはいっても、20年以上東京で暮らしている。それなのに、最近あることに気が付いた。
私は、東京のド定番土産である、東京ばな奈を食べたことがないのだ。
自分の知人が旅行に行って、お土産として渡してくれるのは、当然旅行先の地域の銘菓である。しかし、東京在住の私には、わざわざ「東京に旅行にいってきました」といって東京のお土産を買ってきてくれる知り合いはいない。
だから東京の名物であるはずの東京ばな奈を、生まれてから一度も食べたことがないのだ。
なぜ東京の名産品でもないフルーツのバナナを使ったお菓子なのか?いつから売られているのか?東京ばな奈は、味も成り立ちも、私にとっては未知のお菓子だ。
東京ばな奈を食べたことがなかったとしても、困ることはない。東京にいるからといって、東京の名を冠するお菓子を知らなくとも問題はない。そう思っていたが、この間少々困ったことが起きた。
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地方に住んでいる友人が、私のもとへ遊びに来てくれた時のことだ。友人が帰る日、お土産選びに付き合っていたら、どれがおすすめかを尋ねられたのである。
そこで初めて、地元の味を知っておいた方がよい、と気付かされた(東京ばな奈が地元の味と言えるかどうかは別として)。自信を持って、東京に来たからにはコレ!、とスマートにお土産を勧めることができていたらと、やや後悔した。
思い返せば、逆に私がその友人を訪ねてお土産に悩んでいた際、友人は「コスパを考えるならこれ」「話題性ならこれ」と、お土産を渡す相手も考慮しながら、お菓子を選択してくれていた。
友人のように、出身地のお菓子の味を、普通の人は熟知しているものなのだろうか?いわゆる銘菓というものを、その地域の人はどれくらい食べるのだろうか?北海道の人は、白い恋人やじゃがポックルを食べたことがあるのだろうか。沖縄の人は、ちんすこうを食べたことがあるのだろうか。気になるところである。