残業で疲れ果てた夜。頭の中で出口の見えない思考が回り続ける
長い夜は私の親友。
暗く静かな空気は、安心感を与えてくれる。
今夜もまた、時計の短針がゆっくりとてっぺんを回る。
今日も疲れた、とベッドにボスン、と身体を沈める。残業を終えた我が身をなんとか引きずりながら購入したコンビニのお弁当とビールは、ワンルームの机の上に無造作に置かれたまま倒れている。
化粧を落とす気にもならず、1日中履いていたストッキングのまま、しばらく横になりながらSNSをチェックする。お風呂も済ませてケアも終わらせた友人の「おやすみ」のつぶやきに、なんとも言えない気持ちになる。
さて、そろそろ食事を取らねばと、力を振り絞ってお弁当を温め、待ち時間でビールを開ける。
ビールの一口目はなぜいつもこんなにも美味しく感じるのだろう。
さっきまで怠く、立ち上がることも億劫だった身体に染み渡っていく。
タブレットで適当な動画を立ち上げ、温めたお弁当とビールを流し込む。程よく酔いが回り、何も考えない時間がやってきたのも束の間、次に頭をよぎるのは明日の仕事のこと、そして今日の反省だ。
ああ、明日の13時からの商談の準備は終わっていなかったはず……明日朝イチで行わなくては。
部長に提出が必要な書類は明日中だった……一度上司に見てもらわなくては。上司は午前中空いているだろうか。
今日の会議での自分の発言はとても場違いだったに違いない、なぜもっと上手く言えないのだろう。
アルバイトさんがお土産を配っていたが私はもらえなかった、嫌われているのだろうか。
すぐに答えが出るはずもない、出口の見えないぐるぐるとした考えが頭を支配し、それは感情へと繋がっていく。
「明日が来なければいいのに……」
時計の針はとっくに『明日』を刻んでいる。だが自分が寝なければ明日は来ない気がして、私は再びベッドへ横になっては、ネットニュースを見て無為に時間を潰す。
明日が来るのが怖い私に、暗い夜の海がそっと寄り添ってくれる
明日が来るのが怖い、これは高校生の頃のテスト前にも経験した感情だ。
もっとも、あの頃は一夜漬けで勉強をすればテストはなんとか過ぎ去っていったが、社会人になった今は毎日がテスト、そしてテスト返却日だ。
しっかり睡眠をとったほうが翌日のパフォーマンスが良いことはわかっている。しかし今この時間こそが、私の心にとってなによりも大切な余白なのだ。
すっかり夜も更け、外を走る車もほぼおらず、部屋には時を刻む秒針の音だけが響く。
心ここに在らずといった状態でスマートフォンを操作しながら、私は明日への不安と今日の反省の海に浮かんでいた。
夜にしか見えない、暗い暗い海。
今この時間だけ、私に寄り添ってくれる海。
夜はネガティブな考えや感情が強くなるとよく言われる。夜に考え事は禁物だと。
だが、ネガティブな感情にどっぷり浸かりたくなることもある。そんな時、夜は味方してくれる。
そうして静かな夜と過ごしているうちに、やがて時計の短針は右下へ傾いていく。もうすぐ朝がやってくる。
少しでも睡眠をとって身体を休めよう、とようやく電気を消し、スマートフォンのアラームを設定して机に置く。アルコールが入った身体はすぐに眠りにつく。
さあ、朝がやってきた。
今日も1日、精一杯頑張らなくてはならない。心から頑張って、頑張って、頑張りきったらそこには、またそっと寄り添ってくれる私だけの夜の時間が来るから。
また、今夜も長い長い夜の時間を楽しむとしよう。