「食べてすぐ寝ると牛になる」とよく言われるけれど、私の場合は「すぐに眠れないから牛になる」だ。

そもそも、「食後にすぐ寝ると牛になる」という言葉は、牛が食後に横になる習性があることからできた言葉だ。牛がなぜ横になるかというと、反芻する生き物だからだ。「反芻」と書いて、「はんすう」と読む。あまり見慣れない言葉なので、簡単に説明すると、一度飲み込んだものを再び口に戻し咀嚼しまた飲み込む行為のことだ。咀嚼し、飲み込み、また咀嚼する。これを繰り返すことで、牛は食べ物を消化している。再び口の中に食べ物を戻すときに、横になっているほうが体への負担が少ないため、牛は食後に横になっている。

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実際に、反芻動物でない人間の場合でも、胃に血液を集めるという意味では、食後に横になることは消化の手助けになるというデータもある。だらしないと思われることも多いが、実は健康的な習慣とも呼べる。だが、横になったからと言って牛になるわけがない。牛のように消化のための反芻をすることもない。

では、なぜ私は牛になるのだろうか。それは、私は思考を反芻する癖があるから。牛のように、一度飲み込んだ感情や考えを、もう一度戻し、再度咀嚼し考え、また飲み込む。実際に、心理学や精神医学の用語に「反芻思考」というものがある。また、当事者へ伝える際は、わかりやすいように「ぐるぐる思考」という言葉を用いることも多い。もっと一般的でわかりやすい言葉を使うならば、「無限ひとり反省会」という状態だ。

例えば、「今日の会議でこういう言い方をしたけど相手はなんて思ったんだろう……嫌な気分にさせてないかな……。でも、過ぎたことだし考えてもしょうがないよね……」と、ひとりで反省し、不安や後悔の気持ちを一度飲み込む。……が、1分も経たないうちに、「やっぱり。こう伝えるべきだったんじゃないかな……」と、もう一度同じ議題が頭の中でリフレインする。「次回から、伝え方を変えよう!」と、結論が出ても、またすぐに、「いや、やっぱり最初から何も言わないのが正解だったのかもしれない……」と、ぐるぐると同じことを繰り返し考えてしまう。

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私は、この反芻思考によって眠れずに朝を迎えることが割と日常的にある。だから、「眠れないから牛になる」もしくは「牛になるから眠れない」と、自分に対して新しいことわざを作ったのだ。

「失敗は成功の基」という言葉があるように、反省会を開くこと自体は悪いことではない。しかし、限度というものがある。私のように、朝まで反省会を開いていると、肝心な日中のパフォーマンスが低下する。そんな状態だから、余計に反省会の議題が追加されていくのだ。これは完全に悪循環になっていると私自身も気づいてはいる。しかし、ぐるぐると頭の中を渦巻く思考を自分の意思では止めることができないのだ。

そんな私が、最近取り組んでいる対策は、反省会の議題と感じたものを、その場でメモに残すことだ。例えば、「あっ……今の言い方良くなかったかも……」と感じた瞬間に、「〇〇という言い方が悪かったかもしれない」とメモする。「相手が笑顔じゃないからそう思った。忙しかったから余裕がなかったのかもしれない」と、議題と一緒に、その瞬間なぜそう思ったのかをその場で記録しておく。

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そして、改めて夜のひとり反省会で議題に対して自分の考えを書き出してみる。「相手が笑顔じゃなかったから、不快に感じて嫌われたかもしれない」のように記録する。その後、違う時間に書いた2つの記録を見比べる。当初の評価よりも、ひとり反省会で書き出す評価のほうが圧倒的にネガティブなものになっていることに気がつく。すると、「時間経過で、悪いほうへと認知がゆがんでいるんだな」と自分でも実感する。そのことに気づけた議題は、ここからいくら考えてもネガティブな方にしか行かないと判断し、次の思考に移行することができる。この方法で徐々にだが、ひとり反省会の回数や時間が減ってきている。

同じ牛になる行動でも、「すぐに眠れないから牛になる」ではなく、「食べてすぐ寝ると牛になる」を目指していこうと思う。