私はとんでもなく面倒くさがり屋だ。色々頭で考えることさえ面倒くさい。だから物事は大体直感で決めていた。それでも直感で決めた選択で大きな失敗や後悔がないので、自分の直感を疑うこともなかった。

そんな私の大学時代に、いや、これからの人生にとって、大事なことを知ることができた大きな選択がある。

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大学では英文学を専攻していた。英語はほとんど話すことができないレベルのまま卒業を2年後に控えた私は、留学には行きたいけれど、今更行く勇気もお金もなかった。それでも漠然と、心の中ではずっと海外に憧れていて、日本という島国から脱出したかった。なぜ他の国は陸続きなのに話す言語や文化が違うの?なぜ日本より貧しいといわれる国の人たちが、日本人よりも幸せそうなの?世界に興味津々だった。

そんなある春の日、普段は見ることのない学校の掲示板にふと目をやると、留学生に関するチラシが飛び込んできた。今年の夏に日本にやってくる留学生をサポートしながら、大学寮で共同生活をしてみないか、という内容だった。

この大学にそんな寮があったこと自体、2年間通っていて全く気づかなかった。寮の存在にすら気づかない私が、そのチラシに気づいたこと自体まず奇跡なのだが、気づいた頃には応募期限がすぐそこまで迫っていた。

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応募要項は①TOEIC500点以上。うん、以前受けさせられたTOEICでなんとかクリア。②ボランティアなのでお給料はなし。それもまあそうであろう。③1年間留学生と寮での共同生活。

そう、これが一番の問題だった。外に出たいと思ってはいたものの、実家から出たことはなく米の炊き方すら知らない私が、文化の違う人たちと生活などできるのだろうか。しかも2、3ヶ国とかではなく、なんと10ヶ国以上の国から40人ほど集まってくる。

ここで私の面倒くさいアラームが鳴る。考えるのめんどくさい、まあいいや。

数日経ったある大学の講義前、挨拶や軽い会話をする程度の知り合いが例のチラシを持っていた。

「え、それ応募するの?」。そう尋ねる頃には、すでにもう応募するんだろうなという直感が働いていた。よく見ると応募期限はすでに切れている。ダメもとでも応募しよう。

そしてなぜか選ばれた私たちと留学生との共同生活が始まった。

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それは本当に、想像以上に大変だった。当たり前である。今まで過ごしてきた生活習慣や文化、言語、性別、環境、食べ物。ありとあらゆるものが異なる。それは留学生だからというわけではなくて、同じ生活を日本人同士でしたとしても大変なはずだ。だって40人もいるし。

日本に来たばかりの留学生は、皆3歳児のように質問の嵐。

「これはどう使うの?」「この日本語の意味は?」「銀行や市役所の手続きに必要なものは?」

米が炊けない私は炊飯器の使い方を教えることもできず、日本語なんて気づいたら話せるようになっていたから説明のしようがないし、実家暮らしで必要な手続きは全て親がやってくれていたから、必要な物なんて知るわけがない。

私はやっと気がついたのである。自分がとんでもなく無知だということに。

むしろ留学生の子達の方が私より詳しいこともあった。日本に興味があって留学に来るくらいだから、それなりに知識はあるのだろうけど、それでも20年以上日本で暮らしてきた私より詳しいなんて。とても恥ずかしくて、情けなかった。

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今まで外に、海外にばかり目を向けていたが、日本のことを留学生の子達と一緒に学ぶことで、日本にも興味を持つようになった。行ったことのない都道府県にも一緒に旅行に行った。教える、という役割は全くと言ってよいほど果たせなかったけれど、その分たくさん一緒に学んだ。

直感を信じたら、たくさんの出会いと学び、経験、失敗や悔しさに出会った。

そして今日の私も直感に頼って、懲りずに色々な経験を積んでいる。日本でもまだまだやれることがあると教えてくれたから。