好きなものが手の届きそうなところにあったら、手を伸ばしたいタイプの私。

例えば、面白そうな映画や鑑賞したい美術展を見つけたら、「絶対に行きたい!」と思う。そして、予定を調整したり家計のやりくりを考えつつ、実行に移すのだ。

本好きな私はお目当ての本を探している中で、装丁やポップに惹かれた初対面の本を思わず買ってしまうことも、もはや日常茶飯事。最近は好きなタレントのトークイベントや作家さんのサイン会などにも行く機会が増えた。

応援している人に直接会えるのが嬉しいのはもちろん、さらに応援したいと思う。

こうして、私の「好き」は増えていく。

◎          ◎

そんな私でも、まだ手を伸ばしきれないものがある。アイドルのライブだ。

私は複数のアイドルグループを応援しているが、どのグループも人気がある。ライブがあるという情報を入手しても、「絶対抽選から漏れるだろう」と購入を諦めてしまう。そもそも「ライブチケットを購入したい」と思いつくこと自体、最近発生した感情だ。

それほど、アイドルのライブは遠い存在だったのだ。

ライブチケットの購入は、私にとっては高いハードルだ。まず、なかなかいいお値段なので、必ず財布と相談する。人気である証拠なのだが、四捨五入して1万円のチケットを購入することは相当の勇気が私には必要だ。

また、仮に購入したり、抽選に通ったとはいえ、ライブを楽しめる自信が正直ない。

私は広く浅くアイドルが好きなタイプで、応援はしているけど、ファンクラブやグッズに課金はしていない。お手軽なメディアを通して応援するレベル。きっとライブ会場には、ファンクラブに入っていたり、推しグッズも大量に購入するような、熱心なファンが多いだろう。

そんなファンの中に私がいると、不釣り合いな気がする。私よりもアイドルを応援しているファンたちに楽しんでほしいから、常に身を引いていた。

◎          ◎

ある日、好きなアイドルの推しメンバーが舞台に出演するというニュースを知った。推しの活躍を嬉しく思いつつ、私は観に行かないのだろうと無意識で諦めていた。

しかし、公演日が近づくにつれて、ソワソワしていく自分がいた。

「こんなに気になるのなら、観に行った方がいい」
「ワクワクを逃してしまうのは勿体無い」

そして、かなり遅いタイミングでチケットの抽選に申し込んだ。関東のチケットはすでに販売終了しており、関西のチケットを選んだ。普段なら諦めるのだが、お金がかかっても、仕事を休むことになっても、この舞台は絶対観に行きたい。そう思った。

こんなに推しのイベントに必死になるのは初めてだった。

緊張の中迎えた抽選結果の日。私は落選だった。

「やっぱりな」と思っていたが、抽選結果のすぐ後に、全公演日程の当日券の抽選を期間分毎回実施するというニュースが入った。私は全日程の抽選に応募した。リマインダーを設定して、締め切り前に毎日抽選に参加し、結果発表時刻をドキドキしながら待った。仕事中も気になってずっとソワソワしていた。

◎          ◎

全ての抽選に、私は落ちた。悔しかったけど、なぜか清々しかった。

改めて、推しが私にとって日常に彩りを加えてくれる存在だと認識した。これからも応援していこうと強く思った。
推しだけではない。今回の舞台原作や共演者にも興味を持った。推しが舞台で表現していた世界を活字で追いかけたい。共演者の今後の活躍にも注目している。

推しのおかげで、私の世界が少し広がった。

ライブでも舞台でも、次の機会はチケットに当選して、推しを直接見てみたい。届かなくても、応援しているという声を届けたい。

たとえそれが実現しなくても、推しとそのグループが幸せならば、私は嬉しい。