私は朝食はしっかり食べる派だ。朝食以外は食欲旺盛な夫が、私が自分用に盛ったシリアルの山を見て驚きの言葉を発したこともあるくらいだ。
幼少期から、朝食を食べてやっと体のエンジンがかかるような体質だったと思う。朝食を体に取り入れることで本当の意味で体が目覚めたような感覚を得られるし、それでやっと体に力が入る気がする。だから、「朝、食べると調子が悪くなる」と話す友人の言葉が全く信じられなかったし、健康診断などで朝食を抜かなければならない日は、昼食時まで生きた心地すらあまりしないものだ。
しっかり朝食をとったつもりでも昼食前にお腹が鳴って困ってしまうこともしばしばで、どちらかというと普段はやや少食な自覚があるだけに我が体ながらその特性には戸惑いも隠せない。
確実に言えるのは、私には朝食をとらないという選択肢はまずないということだ。
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しかしつい数年前に、そんな私の習慣に対する信念が揺らぎそうになる説を耳にするようになった。
従来の常識では、一日三食を食べ、もちろん朝食もしっかり食べるのが一般的に健康的なこととされてきた。しかし近年の一説によると、これは食べ過ぎであり、本来人間には一日二食で十分らしい。現代人は、豊かな食生活を享受する一方で、生活習慣病のリスクも上げているとのことだ。
そこで、朝食を抜き、昼食と夕食との間を8時間以内に収めるという「16時間断食」が話題になっている。意図的にまとまった断食時間を作ることで、胃腸を休める時間を増やし、空腹時に働くというオートファジーを機能させ、結果としてデトックス効果や腸内環境改善効果が期待できるとされる健康法である。
この健康法、理屈を聞く限りもっともだと思えるし、何より朝食をとるための食費も時間も浮くのは魅力的に思える。
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しかし、である。実践するとなると、私にはとてつもなくハードルが高いのは想像に難くない。慣れてしまえば案外平気かもしれない、と楽観的観測をすることもできる。でも、そうだとしても、私の体質的にどれほどの効果を発揮するか不明な健康法の実験のために、いくつもの午前を犠牲にする覚悟が私にはない。朝食でなく、夕食を抜く方がまだ現実的に思えるが、仕事で疲れた一日の終わりの楽しみの一つである夕食を自分から奪うことはかなり悲しいことのように思える。それに何より、結婚した今となっては、平日の夕食の時間は、フルタイム共働き夫婦の忙しい中の貴重なコミュニケーションの機会である。その時間を捨てる選択肢もない。
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結果、私は流行りの健康法を習慣づけるどころか、数日間のお試しすらできていない。でも、自分の体が嫌がりそうなことを実施することは、本当の意味で健康法と呼べるのかどうか、疑問にも思う。従来の常識に反して、朝食を食べることが体に合わない友人がいたように、朝食を食べないことが私の体に合わない可能性は十分ある。
こうやって言い訳らしきものを並べると、結局は面倒くさがって新しい考えを取り入れられない人、と思われるだろう。実際、そのような冷ややかな目で自分のことを見る自分もいなくはない。でも、それならそれで構わない。私の体が、本能的に「この健康法は私に合わない」と感じ取っているのだ、と思うことにしているからだ。
どこかの誰かが提唱する健康法を安直に取り入れるより、自分の体の声をよく聞いて、合うと思うものを取り入れる。これこそが、今の私の一番の健康法ではないかと思う。結局、自分の体のことを一番よくわかっているのは自分なのだから。