旅において、食事というのはかなり大きな部分を占める。食事なくして、人間は活動することはできない。だから、食べなくては何も始まらないし、旅は楽しめない。せっかくいつもと違う場所で何かを食べるなら、胃袋の許す限り珍しいものを食べてみたい。私にとって、旅に出るときに食べ物のリサーチは欠かせない。

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旅先の朝ごはんというのは、ワクワクするものである。海外旅行をするとき、ホテルで朝ごはんを食べるのも、現地のローカルなお店へ出かけるのも良い。昼や夜の食事、スイーツなどにもその土地ならではのものがあるが、私は朝ごはんこそ特徴が表れやすいと思っている。

ホテルの朝ごはんといえばビュッフェスタイルのところが多く、どこへ行っても同じように思われる人もいるかもしれない。だが、そのラインナップに意外と個性が出るものである。

フィンランドにあるヘルシンキ中央駅前のとあるホテルでは、チーズの種類の多さに驚いた。限りなく白に近い色をしたものから、オレンジ色に近い濃い色のもの、穴があいているものなどがあった。薄めにスライスされたライ麦パンに、ハムやスモークサーモンと一緒に載せてオープンサンドにしてみたり、チーズだけそのまま食べてみたり、どちらでも楽しめる。周りを見渡すと、コーヒーとパン、少しのサラダという風に軽めの朝食をとっている人が多かった記憶がある。

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ところ変わって中国の北京市内、北京西駅よりほど近いホテルではがらりと変わる。ビュッフェ会場の片隅には、多種多様なチーズの代わりにせいろが並び、一つ一つ蓋を開ければそれぞれ異なる点心が詰まっていた。エビ餃子やシューマイ、ひよこをかたどった可愛らしい饅頭。北京の人々に親しまれている屋台料理、煎餅果子も食べることができた。炒め物などもあり、朝から結構パワフルな料理が多いが、これらをしっかり食べる人が多かった印象がある。朝食後に散歩に出れば、公園などで太極拳や卓球をしている人もいた。北京の人々は、朝から活発であった。

ホテルで朝食をとるのもいいが、朝から外へ出て現地のローカルな朝ごはんにチャレンジするのも楽しい。外食文化の色濃い香港では、朝早くから開いている飲食店も多い。ホテルから近いお粥屋さんに行ってみると、人気店ということもあってかすでに行列ができていた。店内に入ると広東語が飛び交い、人々が様々な話をしている。ローカルなお店のため、メニューも広東語である。何にしようか迷っていると、隣の席の人が内容を英語で説明してくれた。海外からの観光客が多く宿泊するホテルの朝食会場では、まずできない体験だ。そんな中に身を置いて食べた熱々トウモロコシ入りのお粥は、その味と現地の人の優しさで心もお腹も満たしてくれた。

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朝ごはんというワンシーンを切り取っただけでも、旅先の思い出は尽きない。朝の過ごし方ひとつとっても、文化的な特徴があって面白い。遅めの時間に起きてホテルでのんびりと朝食をとるのも良し、まだ目覚めたばかりで眠気の残る朝の街へ繰り出してローカルフードを求めてさまよってみるのも良し。朝ごはんというきわめて日常的なワンシーンの中で、非日常を体験してみるのも旅の醍醐味である。