いつからだろうか、朝ごはんを食べなくなったのは。
朝がめっぽう弱い私は、極力色んなことを省いてベッドでの時間を過ごしていた。典型的な夜型人間といってもいいだろう。とにかく夜は自分の好きなことをして過ごし、そして朝はぎりぎりまでベッドにいる。この生活スタイルはたぶん学生時代から変わっていない。学生時代、食育教室などで「朝ごはんの重要さ」なんかを教わった記憶はあるし、朝ごはんを食べたほうが健康にいいことはわかっていた。それでも、実行できなかったのは私の怠慢なのかもしれない。
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ただ、一人暮らしを始めて数年。稀に、パッと目覚めることがある。
それがまた気持ちがいいくらいパッと、だ。そういう日に限って天気も良くて、休日であることが多かった。こういう日は、ちょっとワクワクした。いつもはどうしても気だるい朝が一気に輝かしく思えるのだ。
時刻は朝6時。
丁寧なスキンケアをして、お気に入りのワンピースを着る。いつもより丁寧に淹れたコーヒーを片手に机まで戻ってきたら、休日用の派手なカラーコンタクトをつける。そして、それに合わせたメイクをする。少しずつできあがっていく顔に、いつもと違う自分を見つけて思わず笑う。まるでデート前の乙女のようだったからだ。
メイクが仕上がったところで、時刻は7時30分。もう少し時間があるからと、慣れないヘアメイクもしてみる。あれやこれやとヘアアイロンを使いながら奮闘すること30分。ようやく納得のいく髪型ができあがった。少々疲れながらも、パソコンとノート、ペンや本をもって玄関まで数歩歩く。せっかくだしという気持ちで、いつもはあまり履かないヒールの高い靴を選んで玄関を出ると、私はゆっくりカフェまで歩いた。
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お気に入りのカフェにつく。すでに店内にぼちぼちと人がいるところを見ると、世の中の人にとって今日はあくまで「日常」なのだと気づかされる。それでも私にとっては「非日常」のことなのだ。こんな時間に外に出ていることが珍しい。いつもの休日ならばまだベッドの中だろうから。そこで私は、本日2杯目のコーヒーとそしてモーニングを頼む。これが私の特別な朝食。ほどなくしてテーブルに置かれたコーヒーと厚切りパン。たまごを載せて食べるもよし、バターを塗って食べるもよい。手を合わせて小さく「いただきます」と言って持ち上げるパンは、さっくりしていて温かい。
世の中は、本当にいつも通り。けれど私にとっては特別な朝。そして特別な朝食。
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普段よりも少しだけ背伸びをした格好の私が口にするカフェのモーニングは、いつだって用意されているものなのに、今日ばかりは特別な感じがする。一緒に頼んだコーヒーを一口飲みながら、「ふう」と息を吐くと体の力が抜けてスイッチがオフに変わる。今日はこれから本を読んだり、文章を書いたり、楽しいことをしよう。そのための朝食。久しぶりに食べる朝ごはん。
数時間後、いつもより集中力がある気がして考える。もしかして朝食のおかげなのかなって。単純かもしれないけれど、なんでもない朝食のために気合いをいれて準備する朝の時間も、さっくり食べた朝食のおかげか作業がはかどっていることも、なぜかと考えているうちに気づくとつい微笑んでしまう。それが私の朝ごはんの思い出。これからも増えていくだろう思い出。