登山が好きで、始めてからあっという間に10年以上が経った。特に自家用車を持ってからはひとりでどこでも行けるようになり、日本百名山を中心にコツコツと登っている。

よく、「なんで山が好きなの?」と聞かれる。その理由はいくつかあるのだが、「日常の中で、登ったことがある山が見えるのがいいから」というのもその答えのうちのひとつだ。

近くに山のない埼玉や大阪の家に住んでいた時はわからなかったのだけど、日常にいつも山の景色がある、山梨に住んでから思うようになったこと。「うちの地元、山しかないよ」って言う人たまにいるけれど、ないところにはないんだから、山があるのって素晴らしいことだと思う。

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山は大きい。とっても大きいので、他の景色とは違って、結構いろんなところから見える。それがまずとてもめずらしいことだと思う。

例えば富士山。富士山はやっぱりすごい。山梨じゃなくても、天気のいい日は東京や神奈川、長野からも見えるから。富士山を見るたびに、「わたしはあのてっぺんに立ったことがあるんだぞ!!!」と思う(もちろん、キレイだなぁとかも思う)。そうすると、今悩んでいるちょっとしたことや、昨日誰かに言われたちょっと嫌なことが、大体どうでも良くなる。あのてっぺんに立ったことがあるという事実に比べたら、全部それ以下のスケールだからだ。

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山に登って、下りてくるたびに、今まであの頂にいた自分のことがちょっと信じられない。だってあんなに遠くて、ぐんと見上げるほどに高くて、時にはあんなにとんがっていて、見るからに山!って感じなのだ……山だから、当たり前だけど。

だからこそ、あそこに行ったことがある、というのが、山を下りた後も、自分にとってお守りのように勇気を残してくれる。いつかの自分が発揮したエネルギーの凄まじさが、その後、いつでも見られる形で存在しているなんてすごい。

山に、それもあわよくばいろいろなところから見られる高い山にいくつも登ることは、そうやって、自分を鼓舞するお守りを増やしていくことだと思う。今、わたしは日本百名山を63座(山は座と数える)登ったところだけど、それはわたしにとって日本中にお守りになってくれる山がこんなにもある!ということを意味する。再びその姿を旅先で見ることができたら嬉しいし、自分がそこにいない時にも、いろんな町にその山々があり続けることが嬉しい。

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そして、やっぱり自分の住んでいる町から見える山は格別だ。朝、太陽に照らされる姿を見て、夜、闇に溶けてゆく姿を見て、今日も、明日も、変わらずいてくれると思う時が嬉しい。だから、いつかはこの山だ!っていういちばんお気に入りの山を決めて、その姿が見えるところに住んで(麓じゃないのがポイント。近すぎると見えないからね)、毎日毎日勇気づけられて過ごしたい。こんなに心強いお守りはなかなかない!