私が小説家になりたいと思い始めて、書いた小説を新人賞に応募するようになったのは12歳の時でした。

物語を考えたり、文章を書いたりしている時がとても楽しくて好きでやっているはずでしたが、初投稿から10年ほどが経過して22歳になったあたりから自分は何をやっていたのだろうかと思い始めるようになりました。

同世代や自分よりも若い年齢の受賞者が雑誌やネットに載るのを見るたびに、何度投稿しても自分には才能がないという現実を突きつけられて辛くなる事と、12歳の時に執筆活動を始めた頃は小説が書きたいから書いて楽しかったはずが、いつしか気づけば「みんなに認められる小説を書いて受賞する」事が目的になって、自分が書きたいものを書く事よりも人気の出そうなものを考えて書く事を意識するようになったものの、約10年間の投稿歴で受賞歴はゼロ。

好きでやっているとはいえ努力をしても才能がないことは確かなので、夢を諦める時期としては22歳は妥当だと当時の私は思いました。

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小説家志望の人が集まるサークルで誹謗中傷をされてサークルを辞めた時も、新卒入社の会社を病気で退職した時も、そんな状況だからこそ大好きな執筆活動を頑張ろうと思えたくらいでしたが、もうどうでもよくなったので、中学生の頃からほぼ毎号買っていた小説雑誌と公募情報雑誌を買う事をやめました。

学生時代はお小遣いが足りなくて雑誌が買えなかった時は家から自転車で片道30分くらいかかる図書館に行ってまで読んでいたほど夢中になっていた雑誌なのに、読みたい欲求が全くありませんでした。

少ないお小遣いをやりくりしていた学生時代とは異なって、社会人の私は雑誌数冊が不自由なく買えるくらいのお金はあるのに、夢を諦めた途端に興味がこんなにも簡単に消えてしまうなんて不思議なものです。

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後は、小説の書き方の解説書も処分しました。色々な解説書を幾つか買って付箋を貼ったり線を引いたりして何度も読み返して執筆活動の参考にしましたが、私はそれらを役立たせることはできませんでした。

解説書によって書いている内容が微妙に異なっていて、Aという本では推奨しているテクニックがBという本では良くない例として載っているということもあって、何を信じたらいいのか分からなくなってしまって解説書を読めば読むほど、上手い文章を書かなければならないというプレッシャーに襲われて、楽しかったはずの執筆活動が辛くなったからです。

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これでもう夢は諦めて普通の大人になるはずでしたが6年後、28歳になってから何故か再び小説が書きたいと思い始めて、約6年ぶりに執筆と投稿を再開しました。6年ぶりに投稿したのは原稿用紙5枚分の掌編小説の賞でした。この時も受賞はしませんでしたが、約6年ぶりの執筆活動にはあの時のような辛さはありませんでした。

受賞するような作品は作れなくても、物語を考えて執筆して完成させて投稿するのが好きだと気付いたので、私は小説が書ける限りはずっと執筆と投稿は続けると思います。

私が執筆活動をしていて一番楽しみなのは投稿作の結果が発表される日です。もしかしたら受賞者の方には雑誌やサイトなどで結果が発表される前に連絡があるのかもしれませんが、もしかしたら自分のペンネームが載っているのではないかと探す時は毎回ドキドキします。

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私は「小説家になる」という夢からは逃げました。「小説家になる」ためではなく「書きたいから書く」に変わったからです。

良い小説を書くために周囲のアドバイスを聞いて作品が独りよがりにならない事は勿論大切ですが、色々なテクニックを取り入れようとしすぎて書きたいものが書けないのは辛いので、小説の書き方の解説書などに書いているテクニックを全て取り入れようと無理をする事を辞めました。

そう考えたら6年近く小説から離れていた時間も無駄な時間ではなく、自分にとって必要な時間だったのかもしれません。