幼い頃から本を読むことは好きだったのだが、本の虫だったかと言われるとそうではなかったし、地元唯一の図書館で本を借りたこともなかった。小説よりは漫画のほうが好きだったし、漫画よりはゲームに熱中していたので、読書は好きだが読まなくてもいい程度の好き度だったと思う。

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書くことに関してもそうだ。作文を書けば先生に褒められはしたものの、そこから「そうだ小説家になろう」なんて突飛な将来を思い描くことはなかった。堅実に、テキトーに会社員を目指したし、大学卒業後は実際そうなった。事務と営業、慣れない仕事に追われ、読むことからも書くことからも程遠い生活を送っていた。

そんな私に転機が訪れたのは、2022年の10月。会社を辞めて、大学図書館で働き始めたときのこと。休憩時間にインスタを見ていたら、ふと気になる投稿を見つけた。

本好きさんが読んで面白かった本を紹介するアカウントで、穂村弘さんの「もしもし、運命の人ですか。」が上がっていた。

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転職したことで、精神面でも時間的にも余裕が生まれた私は、タイトルに惹かれたその本を職場の大学図書館で探した。幸運にも所蔵されていたその本を借りてみたところ、なんと一週間で読み切ってしまった。

普通の文庫本を一週間で。しかも読み足りないほど面白く、面白い(それ以上の言葉が出てこない)。日常の些細な出来事が、斜めから、時には笑いそうなほどの悲壮感で見つめられ、ユーモアたっぷりの文でしたためられている。なんだこの本は。雷に打たれたような衝撃だった。中二で矢沢あいさんの作品に出会ったとき以来、久しぶりに自分がどハマりする作者さんに出会えた。

そこから私は穂村弘さんのエッセイを読み漁るようになる。今では私の家の本棚に、かき集められた彼のすべてのエッセイ本が並べられている。 

それまではエッセイというジャンルの読み物を手に取ることすらなかった。本当に、タイトルに惹かれただけなのだ。たまたま大学図書館にあったから、「まぁ暇だし読んでみるか」程度の気持ちで手を出した。偶然の出会い、これこそ運命。

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そうして2022年の12月、当サイトでエッセイを書いたのが私のエッセイストのスタートとなる。読み手から書き手になったのは、それはそれで経緯があるのだが今回は割愛するとして、とにもかくにも穂村弘さんの本に出会うまでは「エッセイとは何ぞや」と思っていた小娘が、この変わりようである。たった一冊の本とたった一人の作家(いや、穂村弘さんは歌人か)に出会っただけで。出会いとは恐ろしい。今では私が書いたエッセイも軽く50篇ほどある。

人生を豊かにするには本を読め、なんて文言を一度は見聞きしたことがあるだろうが、最初はピンとこなかった。しかし実際に体験してみると、確かにこれ以上ないほど視界が広がる。物事を客観的に、かつ多角的に見ることができる。 エッセイという、現実世界に一番近いジャンルだから余計にそう思えたのかもしれないが、本が不得意な人は絵本でもいい。無作為にでも読んでみれば、第三者の突飛な思考に触れることができる。

ちなみに私がオススメする穂村弘さんのエッセイは「鳥肌が」である。ありふれた日常のひとコマだが、よく考えるとゾッとする出来事が詰まっている。この作品で、ときには母親の無償の愛情でさえ鳥肌ものだったりするのだと、私は初めて知った。