相手がメッセージを読むと既読マークがつくメッセージアプリは、いつ読んだかわかってしまう便利さのなかで、スルーできないプレッシャーが湧いてくる。
中学生の頃、部活の先輩とLINEを交換した。私が所属していた部活は先輩と後輩、同級生との距離が近くて、相談しやすい先輩が多くいた。そのせいで遠慮や配慮、忖度することを知らずに部活の輪のなかで過ごしていたこともあって、一度だけ先輩に失礼なメッセージを送ってしまい地雷を踏んだことがある。
◎ ◎
その当時中学一年生だった私は一つ上の二年生の先輩と仲良くさせてもらっていて、部活が終わって家に帰ってからも少しだけLINEでやり取りすることがあった。勉強のこと、進路のことなど部活以外の話も先輩は優しく聞いてくれた。
そんな先輩とあるとき、好きな人がいるのかという恋愛トークをした。先輩が同じクラスの幼馴染と付き合っているという話を、私は三年生の先輩から部室で聞いたことがあった。それが本当なのか知りたかった私は、最初から全くからかうつもりはなかった。
『先輩って、同じクラスの○○っていう人と付き合ってるんですよね?』それまで先輩は既読して数秒で返信を送ってくれていたけれど、そのとき既読がついても何も返信がなかった。初めて既読スルーされてしまった。
その次の日に移動教室のときに廊下ですれ違った三年生の先輩に、そのことを私は話した。そうすると、一か月前に別れようと彼氏に振られ失恋したばかりだったという事実を知ったのだ。とんでもなく失礼な後輩で、最悪だと私が逆の立場だったら、部活でも口を利かないはずだ。
LINEのトークは途絶えてしまったけれど、その後も優しい先輩は時に褒めては時に厳しく沢山のことを教えてくれた。室内で練習する部活だったけれど、夏休みは過酷だった。そんなときも頑張ろかーっと後輩を引っ張りながら、顧問の先生の指示にちゃんと耳を傾ける先輩の姿を見ていた私は、メッセージアプリの既読やら未読スルーなどは、もうどうでもよくなっていた。どちらかというと既読スルーした先輩よりも地雷を踏んでしまった私が悪かったのだ。
その後の部活でも何もなかったかのように、変わらず接してくれた先輩の優しさが、私は嬉しかった。今思うと、既読スルーというショッキングな出来事は「遠慮や配慮におけるマナー」を、真面目腐りながらも、ちょっぴりガキなところもある中学生の私に教えてくれたのかもしれない。
◎ ◎
そのように、いくら親しい仲であっても「遠慮・配慮」は大事だと心得た私は、直接会って話すときだけでなくメッセージアプリでも、人との距離感を大事にしている。
既読をつけたら、なるべく早く返信するように心がけている。逆に質問のようなメッセージが届いたときは、返信内容が長くなりそうだと思ってこっそり未読スルーするときもある。しかし、どんな内容のメッセージでも最終的にはきちんと返信している。
といっても連絡を取り合う相手は年々、限られてきているなかで、既読スルーと未読スルーだったらどっちが傷つかないかと問われると、その答えは難しい。正直、どちらもされたくないし、なるべくしたくない。どうしても返信したくないくらい怒っているときは、とことん既読スルーしてしまうかもしれない。本気で怒ると黙る人と、性格が変わったようにまくしたてる人がいるけれど、私は前者だという自覚がある。だから、既読スルーしたときは怒りを表していると思ってもらうと、ありがたい。
身近な人に向けて話しているみたいな文章になってしまったけれど、私以外にも、ただ既読・未読スルーしているわけではなく、それには色んな感情を託している人がきっといると思う。誰がいつ読んだかわかってしまうメッセージアプリは、そんな感情の圧をも送ることができるのだ。