友人と某食べ放題レストランに行ったときのこと。そのお店は席に置いてあるタブレットからメインを注文して、食事は猫型ロボットが運んできてくれるシステムだった(ちなみに青くなくて四次元ポケットもついていないほうの猫型ロボット)。

食べ放題なので、副菜やデザートは個々で取りに行かなければならない。私たちの隣に座った女性3人のグループは、3人ともが席を離れてしまった。しばらくして、隣の席に猫型ロボットがらんらんとメイン料理を運んでくる。しかし席には誰もいない。料理を取って、OKボタンを押して猫型ロボットを帰してくれる人が、誰も。

数分後に1人が戻ってきて猫型ロボットの存在に気づくと「ごめんねー!」と言いながら料理をテーブルに置き、OKボタンを押した。

たとえ相手が機械でも謝る淑女たるや。これで猫型ロボットの役目は終わった。タブレットの顔でニッコリ笑った猫型ロボットは、これまたらんらんと厨房に戻っていく……はずだった。淑女はまたビュッフェのほうに戻ってしまい、その際に引いた椅子が猫型ロボットの行く手を阻んで立ち往生することになってしまった。

なんということだ。仕事は終えたのに、少しはみ出した椅子のせいで動けない猫型ロボット。心なしかタブレットの中の顔が悲しそうに歪む。

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結局、そのまま5分ほど動けなかった猫型ロボットは、たまたま気づいた店員さんによって助けられ、自由の身となった。のだが、果たして人件費削減とは、という問題が残る。

各所でお手伝いロボやセルフレジ、案内係にペッパーくんを見かけるが、今回の猫型ロボットのように人手を借りないと使い物にならない代物がほとんどだ。私がかつてアルバイトをしていたところもセルフレジを導入していたが、金銭の詰まりやレシート紙切れになると、人が人の手で解決しなければならない。

一度、セルフレジがエラーを起こして本部に電話をかけながら直したこともある。その間、有人レジは人手不足になるので、とんだ災難だった。

図書館で働いていると、あまりにも単純作業ばかりで辟易する。返却や貸出なんて、それこそAIが管理してくれたほうが遥かに楽でスマートだ。人間がやるから貸出漏れや返却漏れなんかが起こって、本の紛失に繋がってしまう。

しかし、の先しばらく図書館にAIは恐らく取り入れられないだろう。なぜなら、図書館にはレファレンス業務がつきものだから。

レファレンスとは、利用者の要望に応える業務のことだ。簡単なものであれば、利用者が求める資料が図書館内に所蔵されているか、されていれば予約をしたり、されていなければ他の自治体から相互貸借をしたりする。これが難しいものになると、資料の探索を飛び越えて、利用者の「なぜ」に応えなければならなくなる。
「ペットが死んで気分が落ち込んでいるんだけどね、ハッピーエンドの物語はあるかしら。猫が出てくる物語がいいわ」
こういう要望、普通にある。ので、とにかく探す。ネットを駆使し、調べあげ、実際に読んで利用者にオススメできるかを吟味する。レファレンスには図書館員の判断がつきものだ。

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AIに人間の心をることはできない。この世は単純作業で終えられる物事ばかりではないのだ。時には模範解答が誰かを傷つけることだってあるし、答えなんて問われていない問いだってある。

人間が世界を回している以上、AIが人間の要望に完璧に応えることなどほぼ不可能だ。

それにしてもホールにいる猫型ロボットは、SOS機能くらい取り付けるべきではなかろうか。動けなくなったときだけ「にゃーん(涙)」と鳴く猫型ロボットがいたら、店員どころかお客さんも助けてくれるだろう。

……いや、むしろ鳴き声聞きたさにわざと椅子を引いて立ち往生させるお客さんが増えるかもしれない。あちこちで「にゃーん(涙)」と聞こえるレストラン、カオスだ。

うーん、便利を追求すると人間の心と欲が邪魔をするので本当に難しい。