「かがみよかがみ」には色々な想いを吐露させて頂いた。

暮らしのときめき、甘酸っぱい思い出、自分の中に灯る愛情といったポジティブなものから、劣等感、恨み、孤独、不安といったネガティブなものまで。自分の内面を言葉にする機会を与えてくれたこと、さらには文章を書く・読むという行為を通して、間接的に多くの人たちとの繋がりを感じさせてくれたことを、私はずっと感謝している。

感謝しているからこそ、吐き出しっぱなしになってしまった自分の文章―特に、負のオーラを振りまき、人をむやみに暗い気持ちにさせてしまったかもしれない文章―について、何らかのけじめをつけたいと考えていたが、「年齢制限の壁」に阻まれて叶っていなかった。

今回テーマもぴったりなので、紙幅(画面幅?データ幅?)をお借りし、「経過報告」をさせて頂けたら幸いである。

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配偶者の海外転居に伴うキャリアの断絶。とてもわかりやすい壁にぶち当たったのは昨年のこと。
夫は外国人で、私と暮らすことを目的に日本に来てくれていたが、複数の事情が重なって母国に帰ることを希望するようになった。彼と離れる選択肢などとても選べなかった私は、彼についていくことを決意した。

しかしそれは、現職のキャリア、未来の可能性、7年間積み上げてきた社会人としての信頼と経験をいったんおじゃんにし、築いてきた人間関係や、日本という土地の利便性を捨てるということでもあった(昨年の7月に投稿させて頂いたエッセイで、その鬱々とした悩みを書いている

仕事、辞めなきゃいけないかー。
仕方ないよな、人生って、取捨選択の連続だっていうもんな。
家族とも一緒にいたい、でも仕事も続けたい、両立させたいと願うのは、きっとわがままなんだ。全部を選ぶことはできないんだ。彼が我慢してくれたこともあった。だから、今は私が我慢すべき番なんだ。
何度も、そして何ヶ月も葛藤を繰り返した私は、いつしかこんな結論に至っていた。

納得しきってはいなかったけれど、このように自分に言い聞かせなければ、ただ惨めな気持ちになるだけだった。

勤め先にはなかなか言い出せなかった。不満もあるが恩も感じている会社だ。

引き継ぎで迷惑をかけたくはないから、渡航までに余裕をもって報告したい。けれど人生の時間が有限であることも事実。どうせ辞めなければいけないのなら、サクッと報告してサクッといなくなりたい欲もある。

言えない間、大げさでなく何かの罪を犯しているようで、毎日本当に苦しかった。

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ついに意を決して、上司に話をした。会社を辞めないといけなくなりました、夫が母国に帰るからです。
上司から返ってきたのは

「そうか。引き継ぎちゃんとしろよ」という酷薄な言葉…ではなく、
「は?勝手なこと言ってんなよ。仕事の責任最後まで取れよ」という苛烈な言葉…でもなく、
「……海外からリモートワークしてみたら?」という、意外すぎる建設的提案だった。

そう来るとは思わなかった。そうか。その手もあるか。
いや、そういう手段がこの世にあることを、全く知らなかった訳ではない。ただ、私には無縁のことだと思っていた。どちらかと言うと古式ゆかしい職場に、そんな柔軟性を期待していなかったし、会社としても私を切って他の人を雇う方がプラスになるのではないかと思っていたからだ。

思っていたより、会社が私を必要としてくれていたことを、こんな形で知るとは。
「リモートワークと一口に言っても、どうやって?何を?いつから?」という具体的な勤務形態の詳細は省く。ただとにかく、私のキャリアは首の皮一枚で繋がった。

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あんなに思い悩んだ時間を返してほしい…とは言わない。思い悩み、将来に不安を抱き、先の見えない人生が怖くてたくさん泣いたからこそ、今持っているものに心から感謝できる。
仕事が続けられること、仕事を続けながら家族と一緒にいられること、どちらも当たり前ではない。だから、そのありがたみを噛み締めて、これからも日々を送っていかなければと思う。

昨年、この「キャリアの壁」にぶつかった私は、目の前を遮られて絶望した。でも、人の協力もあって、結果的には壁の抜け道を見つけることができた。様々な種類の「壁」に悩む人が、同じように抜け道・迂回路を見つけられることを、そして最後には笑っていることを、心から願う。私も最後に、笑っていたい。