海外駐在か、結婚か。
この2択が突きつけられるのは、女性特有のように思える。
海外駐在がある仕事に就いた男性が、この2択に悩むことはきっと少ないのだろう。
私は、社員の3分の1が海外で働く、海外駐在が当たり前の環境で働いていた。
「海外駐在したい」と思って入った会社だけれど、私は海外駐在ではなく、結婚を選び、 国内外の転勤はない、フレックス制でリモートワークもできる職場に転職した。
ハンバーガーにはセットでポテトとドリンクをつけることが定番のように、 結婚には妊娠、出産をセットでつけて考えることが多い。
そもそも、子どもを産み育てたいかを決める自由が、女性やそのパートナーにはあるけれども、様々な可能性を残しておきたいと考えるのが、人間らしいのではないか。
「子ども産みたいと思わない」と言える20代前半女性はそれなりに多くいるのかもしれないけれど、「絶対に子どもを産みません」宣言ができる女性は少ないのではないかと思う。
私も、「子ども産みたいと思わない」20代前半女性の1人だった。
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25歳で結婚した今、既婚者として妊娠出産のテーマがより現実的になってきたけれど、それでも、「今年結婚して、来年頭までに結婚式や新婚旅行も終えて、その後には妊娠も考え始めたい」と、将来計画を立ててはいない。子どもができる前提で考え始めると、もし夫婦どちらかに不妊の症状があったり、病気など様々な要因で子どもを作らないことにしたときに、夫婦関係も壊れてしまいそうなのが怖いからだ。
ただ、結婚への憧れはなかったけれど結婚した私のことだから、それでもいつか妊娠、出産して、母になるのかもしれない。
女性が健康に妊娠、出産するには、生物学的な年齢の制限があるからこそ、 海外駐在するか、結婚するかの2択を思い浮かべてしまうのだと思う。
海外駐在が当たり前の職場で、国内勤務だけでキャリアを築き上げることも可能とはいえ、珍しいことだから、何らかの理由が必要な気がしてしまう。同期が海外で活躍するなかで、自分は国内で働いているという、ある種の劣等感を感じてしまうのかもしれない。
私は自分が「結婚したので海外駐在しませんでした」の女性社員として、前の職場で生き生きと働いていける自信がなかった。
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結婚=寿退社という意味ではないけれど、結婚すれば「家庭があるので」という都合の良い理由を口実に、堂々と国内勤務を続けられる。もちろん結婚していても、女性が単身で海外駐在することも、夫と一緒に海外に行くこともできる。ただ、それらの選択肢は可能ではあるけれど、様々な葛藤や周りからの声があると思う。
仮に既婚の男性社員が海外駐在する際には「●●さん、ニューヨーク転勤か!じゃあ奥さんは駐在妻になるんだね」と声をかけられるだろうが、既婚の女性社員の場合には「じゃあ旦那さんもニューヨークについていくんだよね」と言われることはあまり多くないはず。むしろ駐在夫になる場合には「えっ、旦那さん偉いね」と言われるのかもしれない。男性が退職や休職を選び、キャリアを中断してまで、妻の海外駐在についていくということは、「勇気あるね」「すごいね」「偉いね」と言われるのに対して、女性が駐在妻になってもそのような褒めの言葉はもらえない。女性が単身で海外駐在するとなれば、「妊娠、出産はどうするんだ。子どもを産むタイミングがなくなるじゃないか」と夫側の義理の両親に嫌味を言われるのかもしれない。
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女性ならではの海外駐在の悩みを分かっていたうえで、私は就職活動し、「海外駐在したい」という思いと共に、前の職場に入社した。
入社前は、「2~3年目くらいで海外に駐在させてくれればいいのに」と思っていた。
そうすれば、20代後半のいわゆる結婚適齢期には帰国し、結婚や妊娠出産といったプライベートな計画も順調に進められるからだ。
ただ会社という社会に一歩踏み出してみると、入社数年の若手を海外にいかせるなんて、できないと分かった。会社によってもちろん違いはあるけれど、日本からの駐在員はいわゆる管理職であり、現地のローカルスタッフを束ねるマネジメントもしなければいけない。そこで20代前半のピチピチ社員がどんなに優秀でマネジメント力に長けていたとしても、30代~50代のローカルスタッフと年齢を気にせずに仕事はできないと思う。
私は、大学時代に留学した、その留学先の国で、駐在員として働きたいと思っていたし、その希望は職場の同僚にも伝わっていた。
しかし、海外出張を経験するうちに、私は「留学先の国で働きたい」だけで、「留学先の国で働くけれど、数年で日本に帰る」という駐在員にはなりたくないのだと気づいた。
ローカルスタッフと駐在員の対立関係になんて関わりたくないし、私はもっと現地に根差した暮らしや仕事がしたい。
そう気づいた私は、海外駐在ができる環境から逃げることに決めた。
海外駐在の悩みなんて、海外に行くチャンスがある仕事をしている人だけに与えられた特権ともいえる。 人は自分にないものに憧れるからこそ、決して低くない倍率を通過して入社した、海外駐在ができる会社を辞めるなんて勿体ないと言われた。
それでも私は辞めたのだ。
「●●さん、なんで海外駐在しなかったんだろうね」と陰で言われたくないし、 「海外駐在、ついていくよ」とニコッとした笑顔で言う夫が隣にいるけれど、私達の人生を会社都合で振り回したくない。
だから、私は、海外駐在ができるステージから、自らの意思で下りた。
そして、そのことは全く後悔していない。