高校生を見ると、胸がキュンキュンするような年齢になってしまったこの頃。

ミニスカートを翻しながら、茶色いローファーを吐きつぶし、全力で高校生をしていた時代が私にもあった。高校生の「青春」の代名詞のようなあの頃は、もう約十年も前のことになる。当時全力で恋をしていた。

後に三年間盛大な片思いをする相手となる一色君は、私の左斜め後ろの席に座っていた。窓際の一番後ろの席の君はいつも寂しそうで、イヤホンで外の世界を遮断しているようだった。

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私がこの高校を選んだ理由は、文武両道の進学校ということもあったし、漫画のような青春文化があったからだった。その一つに、体育祭にクラスの男女で必ずペアを組んで踊らないといけないという、通称ペアダンという行事が伝統だった。
入学早々にしてその文化を思い出した私は悶々とし、早速候補の相手を探していた。そして左斜め後ろの一色君を誘おうと決めていた。

いよいよ体育祭シーズンとなり、ペアダンの相手を徐々に見つけ始める子が現れたころ、私も一色君にラインで声をかけた。
「ペアダン一緒に組まない?」
それから三日間未読無視をされ、諦めかけていたころのこと。
「いいよ」
君はいつも、唐突だったね。

有頂天になった私は、世界は自分で楽しくしないと楽しくならないのだと悟り、それから一色君にガンガンのアプローチを始めた。見え見えの行為に若干たじろぎつつも、ちゃんと優しいところが好きだった。失敗をしても、陰ながらフォローしてくれるところが好きだった。席替えで仕組んで隣同士の席になった時、教科書を見せてくれたことがいまだに忘れられないし、君と話した回数を机に正の字で記していた日々にはもう戻れないと今になって気が付く。

それくらい、本気で君が好きだった。

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その後、私はペアダンの約束を体育祭本番三日前に突如破られることになるのだった。
「俺、新しい相手見つかった。男子同士でペアダンやるわ」
まるで何かの天罰かのように、私は急に奈落の底に落とされたような気持だった。

未だになぜ約束を急に破られたのかは分からない。だけど、君はいつもそうやって恥ずかしいと思うと逃げる性格だったと思う。

人生に絶望し、寂しい体育祭も終わりもうすぐ夏がやってくるという頃、私は当然のごとく人生の闇期に突入した。片思いが終了してしまったからだ。

もう打つ手はない、やれることはやったのに……いや?私は本当にやれることすべてをやったのだろうか。
夏休み終盤までこのことを自問自答し、出会ってからこの夏までの短い期間でまだ自分はペアダンを誘うことしかしていないと気が付いた。その一回を断られたからって、何も悲しむ必要はないと気が付いた。

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それからというもの、一色君アプローチを再開した。花火に誘い、これも断られた。じゃあどこかに遊びに行こうといっても断られた。彼から誘いを受けたことは一度もない恋だった。
「俺は塾に部活に忙しいんや」
優しい言葉で断られても、当時の私には頭をゴーンと殴られたようにショックだった。

君はいつも、突拍子もなく私に幸せと不幸をくれる人だったと思う。だけど、後に同じ部活に転部し、マネージャーと部員という関係性を勝ち得た。そこでかけがえのない日々を過ごすことができた。そんな日々は私の宝物である。

あの恋は、私の人生の分岐点だったと思う。何かをしたいと思っても行動する前から諦めていた私が初めて言動と行動を一致させていた日々だったと思う。

のちに一色君は県外に進学することになり、もう永遠に会えなくなってしまう。結局告白もしなかったけれど、あの頃の行動力はいまだに何かの役に立っていると信じている。