「仕事に子育てにバタバタしていますー」
息子が産まれてから、年賀状やらSNS、自己紹介のときにきまって使っていた一言。
毎日子供乗せ自転車爆走で保育所まで送り届け、通勤電車で立ちながらウトウト……。風邪を引いては中耳炎を繰り返す息子、何度耳鼻科で泣き叫んだか……(これはホントにツラかった……)。
もちろん私だけじゃなく夫も息子もみんなで頑張って、文字通りバタバタと過ぎる毎日。
「わたし」ってなんだっけ?なにがしたいんだっけ?と考える余地はなかったけど、有難いことに息子は健康そのもの、元気にぐんぐん育ち、結果「わたし」もどんどん年をとった。
気づけば息子は程よく手を離れ、部活に勉強に忙しく、家にいない土日が増えた。
私自身の仕事は変わらないけれど、気づけば本を読んだり動画を見たりと、周りをキョロキョロすることができる自分の時間が増えていた。
◎ ◎
そんなある日、ネットでたまたま見かけた観光案内。
1枚の写真に釘付けになった。それは……
「火焔型土器」。
そう、それは「なんだ、コレは!」と巨匠・岡本太郎が叫んだ5000年前の縄文時代に作られた土器。
中学生のころ、社会の資料集を読むのが大好きだった。トルコのカッパドキア、グラナダのアルハンブラ宮殿と並んで好きだったのが縄文時代の火焔型土器。何故だかよくわからないけれど、ゾクゾクするようなエネルギーを感じるフォルムに惹かれてよく眺めていたっけ。というのを、一瞬にして思い出した。
コレ、実物を見たい!
そこからは何だか取り憑かれたように夫に火焔型土器と新潟の魅力をひたすらに熱く語る。
この形!誰が考えたんだろう、すごくない?なんと国宝第一号なんだけど、その国宝は新潟県の十日町ってとこにあるんだって。門外不出で新潟県に行かないと見られないんだって。温泉もあるし新潟は日本酒も美味しいよね。
怒涛の推しでなかば強引に新潟旅行を決行。
◎ ◎
十日町博物館で初めてこの目で見た火焔型土器(国宝指定番号1!)ときたら……。社会科見学の小学生達に混ざり、静かに、だけど大興奮していた。
触れるレプリカでは鶏頭冠突起と呼ばれる特徴的な装飾部分にスッポリ指がハマることを発見し「ここってこうやって手を入れて作ったんじゃない?」と学芸員気取り。
バーチャル縄文人体験コーナー(画面中の縄文人に顔だけはめ込める)では小学生達がいなくなったのを物陰から確認。邪魔をしないよう大人の対応で楽しんだ。バーチャル縄文人の私は何故かずっとドングリを潰していた……。
冷めやらぬ興奮の中、宿に向かい十日町の美味しいものを食べ、美味しいお酒を飲んで語り、温泉も素晴らしかった。程よい疲れと満足感であー楽しいと眠りについた。
朝風呂に浸かりながら、息子へのお土産はへぎ蕎麦にしよう、またここに来れるように仕事も頑張るかーと背伸びした。
◎ ◎
行きたいところに行って、見たいものを見てこの手で触れて。五感をフルに使って、少しだけ非日常を体験する。
そんな「わたし」はきっと新しくなっている。