まだ独身だった頃、私はおしゃれをするのが好きだった。暇さえあればネットで服を見て購入、友達としょっちゅう買い物に行ったりして服を買い漁っていた。

きちんと数えたことはないが、箪笥の中が服であふれて引き出しが開けられないほどあったはずだ。週に一度、鏡の前で一週間のコーデを組む。至福の時間。自分の好きな格好をして、やりたい事を全力でやる。やりたい事を全力でするためには、まず自分のテンションを上げる。そのためにお気に入りの服を見にまとう。おしゃれ至上主義と言ってもいいかもしれない。それが今はどうだろう。

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結婚して子供を産んでからというもの、おしゃれをするのが億劫になった。外出する機会も減って家にこもりきり。せいぜい、子供の送迎とスーパーぐらい。家にいるだけでおしゃれするのもなと思い、つい適当に選んでしまう。昔の私はどこにいってしまったのだろう。

やりたいことだって時折浮かんでは、子供たちと寝落ちしてしまえば一瞬で忘れ去ってしまう。なんせ時間が足りない。特に二人目が生まれてからは時間が一瞬で溶けてしまう。家にいるだけなのになぜ? ゴロリと横になる暇さえ惜しい。明日の私が楽になるために、細々とした家事や用事を片付ける。子供たちの予定をこなす。なんてことをしていたらあっという間に夕方で、寝かしつけまで怒涛の時間を過ごすのだ。もうおしゃれとは無縁の人生かもしれない。

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いつものように子供と公園に出かけようとした時のことだった。ふと鏡で自分の姿を見て驚いた。服もメイクも似合ってないではないか。好きで買っていた服たちに違和感を覚える。なんだか顔と体型に合っていないような……? 昔は気にならなかった違和感に、三十路を迎えてようやく気がつき始めていた。

このままでは服も顔も大事故につながるのでは? チグハグなおばさんになってしまう。行く先々で馬鹿にされたら? 想像しただけで嫌すぎる。せめて周りから浮かない格好をしたい。でも自分の好きな格好もしたい。どうしたものか。思い悩んだ私は、SNSで見かけた骨格診断とパーソナルカラー診断をしてもらうことにしたのだった。

自分に似合うものを探すのは難しい。似合うものが必ずしも自分の好みとマッチするわけではないからだ。実際、自分に合う服装とカラーを他者の目で判断してもらって感じたのは「私らしくない」ものばかりだった。

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昔から、私は女の子らしいものが苦手だった。家族から「女の子なんだから」と言われ続け、ずっと反発していたからだ。いまさら着られない。結婚式でのドレスを選ぶ時も「私らしくない気がする」と言い続けプランナーの人を困らせた。私の中で女の子らしいと感じるものは、まるで呪いのように避けてしまう。そんな私でも大丈夫ですか? の一言に尽きる。けれども今のチグハグな私を治すのなら、乗り越えねばなるまい。ええいままよと似合うと言われていた服に袖を通してみた。

鏡で見た私は驚くほどしっくりきた服に身を包んでいた。正直に言って似合っている。夫も子供からも「似合っている」と褒められた。悪い気はしなかった。苦手に感じていたスカートもしっくりくる。これなら周りから浮かないだろう。

しかし、毎回似合う服装ばかりでは味気ないではないか。着たい服装を似合う服装に寄せていこうではないか。ネットと店舗を駆使しながら服を買い直した。箪笥の中は昔のようにあふれてはいないけれど、自分の中で満足のいく服でいっぱいになった。

せっかくなのでメイクもYouTubeやSNSを参考にしながら、見直すことにした。過去の私は発色命! とにかく塗れ! という感じであったが、今は服装に合わせてメイクも変えていく。プチプラだし買っとこ! はやめて、本当に必要か吟味して買う。テンションが上がるならデパコスでも厭わない。ひとつひとつを丁寧に見直して、ようやくチグハグ感が解消されたと思う。今の時代は便利だ。自分ひとりでは解決できなかった問題が、簡単に調べられる。おかげで私のおしゃれもアップデートされ、自分でも満足のいく格好になった。年相応の落ち着きも得られたように感じる。

正直なところ、今の服装を若い内に着てみておけば似合ったのでは? と思うが、歳を重ねたからこそ素直に着られたのではないか。どうせあの頃の私なら、「私らしくない」と言って自分を卑下したと思う。仮に買ったとしても箪笥の肥やしにしてしまうだろう。そう思うと、すっかり身も心も丸くなったものである。

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着たいものを好きなように着るのは、テンションが上がる。しかしそれと同時に自分に似合うものを身につけるのもまたテンションが上がるものだ。すっかり自分のあれこれを忘れていたけれど、ようやく新しい自分を受け入れられたように思う。いや、愛せるようになったというのが正しいかもしれない。

これからも自分の時間をなかなか取れないし、やりたいことを忘れてしまうこともあるだろう。けれど今の自分を大好きになれるように、これからも自分を大好きでいられるようにアップデートしていきたい。