高校2年の文理選択のとき。私は迷わず文系を選んだ。なぜなら数学が全く出来なかったからだ。文系の極みと言える、3年時から一切数学の授業を受けなくて良いカリキュラムを選択した。

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ちなみに、私は中高と美術部に所属しており、大学でも美術系のコースに進んだ。
似たような環境で過ごしてきたという方は分かるだろうが、美術系の学生というのは、数学が苦手な人がとても多い。統計をとったわけではないしそういうデータを見たことがあるわけでもないけど、周りの子達のほとんどがそうだった。

幸いなことに、美術系の学部というのは国公立大学であっても入試に数学を利用しなくて良い場合が多い。必須の大学もないことはないが、圧倒的に少ない。

少なくとも私が受験していた時代は、センター試験(現在の大学入学共通テスト)3科目で国英が必須、もう1科目は数理社のなかから好きなものを選べる、という大学が多数だった。私が受けた大学もそのような形式だったため、当然理数系の科目ではなく、政治経済を選択した。

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しかし、高校同期のT原さんは違った。
彼女も美術部に所属しており、私よりレベルが上の美術系大学を受験した。その大学も国公立で、数学必須ではない3科目で受けられるようになっていた。にもかかわらず、彼女はわざわざ数学を選んで、国数英の3科目で受験したのだ。
理由を訊くと、「数学が得意だから」とのこと。

かっこい〜〜。いいな〜〜。
私もそうありたかった。
文系脳ばかりの美術学生のなかで、数学が得意だと言ってみたかった。

一応説明しておくと、T原さんは誇示するようにそう言ったわけでは決してない。彼女は実力相応の自信はあるが、それを無闇にアピールしたりはしない、出来た人間だ。本人にとってはただ事実で、ありのままに説明しただけなのだ。それもまたかっこいい。

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非常に凡人的な思考だと自分でも思うが、出来ることならイレギュラーな人物でありたかった、と思う。私の最得意科目は現代文なのだが、それも美術学生としては非常にありがち。意外性のある特性が羨ましくて仕方がない。

これは大学進学以降の気づきだが、美術系学部進学者でも、美術以外の部活動を経験している人が多い。
サッカー、ハンドボール、演劇、卓球、バレーボール、バスケ、陸上……今思い出せるだけで、これだけ多様な部活経験者がいたのである。バドミントンで高校推薦をもらったという人までいた。私のように中高とも美術部だったという人間は実は少ない。

「そんなこともやってたんだ!」と思ってもらえる要素が、私にはない。とことん意外性を持っていないのだ。
だからと言って、ギャップを感じてもらえそうな趣味や特技を身につけにいくのも違う。本当にそのジャンルが好きでやっている人には勝てないし、安易さを見透かされてしまうような気がする。

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このギャップの無さはきっと、一生モノだ。2桁同士の足し算でも電卓を使うくらい計算が苦手で、美術以外に適性や興味のある分野もなくて、これはもう直らない。理系脳にも他部活の経験にも憧れはあるが、無理なもんは無理なのだ。
これが「私らしさ」なのだと割り切って、生きていく他ない。