私はチャイナドレスが似合う。
そう気づいたのは、大学1年生のときだった。当時の私は、パーティーコンパニオンのバイトをしていた。

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パーティーコンパニオンとは、会社や自治体がホテルなどで行う集まりでお酒を注いだり食事を取り分けたりする仕事だ。髪を夜会巻きにし、ドレスをまとい、普段よりだいぶ濃いメイクをする。

日当は5000円。準備と移動とパーティーの時間を合わせると大体3時間くらいなので、時給に換算すると1600円程度。この頃の地元の最低賃金は確か800円台だったので、飲食店などで普通にバイトするよりは割がよかった。

ちなみに、コンパニオンにも色々種類がある。イベントコンパニオンは、催しでコスチュームなどを着て花を添える役目だ。これは多分モデルさんに近いような、選ばれし容姿の持ち主しか出来ない。あとはピンクコンパニオンというのもいるらしい。旅館の宴会場でお酌しながら話し相手をして、性的なサービスもする。恐らくだけど、今の時代ではあまりいないと思う。

これらに比べると、パーティーコンパニオンは働くハードルが低い。社員さん以外はほとんどが学生だった。

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この仕事で着るのは、いつもは赤い洋風のドレスだった。ドレスと言っても、インスタの広告で出てくるようなフワフワの素敵なやつじゃない。

地方の小さい古い劇場のステージの幕にでも使われていそうな、どす黒さがある赤い布の、ストレートなラインのノースリーブのドレス。その上に白いボレロを羽織る。強めのパフスリーブで、少し光沢のあるデザインのやつだ。そしてドレスと同じ赤い布のリボンを胸元に着ける。

街中でこういう格好をした数名の女性たちが会場に向かうところを見かけたことがある人もいるのではなかろうか。華やかといえば華やかだが、決してオシャレな装いではない。

美人でスタイルの良い同僚が多く、彼女たちはなんとかなっていた。古臭い髪やドレスでも、素材が優れているからまだ見栄えする。一方私は平たく地味な顔で中肉中背。この格好をさせられると、なかなかきつかった。

勤務中は鏡に映る自分を見る度、あまりの珍妙さに笑ってしまいそうにすらなった。

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しかしある日出勤すると、チャイナドレスが用意されていた。中国人のお客さんが多いパーティーだからだ、と社員さんから説明があった。
着用してみると、あら不思議。いつものヘンテコさがない。髪形は通常通りの夜会巻きだったけど、ドレスのおかげでだいぶマシに見える。アジア人らしさが強い私の顔には、チャイナドレスはピッタリ合っていた。なんなら私服より似合っていたくらいだった。

この日以来、チャイナドレスを着る機会は訪れていない。このバイトを辞めている今、自然とそれがやってくることはもう無いだろう。
少し前、友人が旅行で中華街に行った際、レンタルのチャイナドレスを着ていた。これだ、と思った。今着たければ、これをやるしかない。

出来れば20代のうちに達成したいけど、さすがに観光地といえど1人で着る勇気はないから、誰か誘う必要がある。しかし「私と一緒にチャイナドレス着に行かない?」と言う勇気もない。

まず旅行を計画して、そのコースのなかに中華街も紛れさせて、「じゃあついでに着ちゃう?」みたいな流れを作ろうか。我ながら気の小さい考えである。誰か誘ってくれたら一番嬉しいけど、そんな都合のいいことを期待しているようなヤツに、チャイナドレスは巡って来てくれないだろう。