わたしのたからものはシャープペンシルだ。エメラルドグリーンのボディのシャープペンシルだ。オーダーメイドでも、名前の刻印もない、ロフトでも、スーパーでも見かけるただのシャープペンシルだ。1万円でも、3千円でも、110円でもなく、105円のシャープペンシルだ。税込みで105円。

シャープペンシルは、ボールペンや鉛筆と違って、永久に使える。インクがなくなれば使えなくなるボールペンや、使って削って短くなる鉛筆と違って、シャープペンシルは、芯を替えれば永遠に使える。わたしの手の中で、ずっとずっと文字を生み出して、夢を描いて、わたしの人生を創っていけるのだ。

黒いシャープペンシルを盗まれて、今度はとびきり可愛いのを揃えた

まだ消費税が5%だった時、わたしは中学生だった。おしゃれで高価な(といっても500円くらいの)シャープペンシルを学校に持っていくと目をつけられると噂の、怖い、荒れた公立の中学校に通っていた。だから1年生の時、なんの変哲もない、100円の、量産品の、シンプルな黒いシャープペンシルを何本か使っていたら、ある時全部盗まれた。確か体育の授業の後、教室に戻ったら、鞄にしまっておいたはずの筆箱が、机の上に空っぽで転がっていた。そういう学校だった。その後の授業はどう乗り切ったか覚えてないけど、友達に借りたのだと思う。

その次の休みの日に、一緒に新しいシャープペンシルを友達と買いに行った。もちろん、次はとびきりかわいくて、キャラクターの、持ち主が誰だかすぐにわかるようなシャープペンシルを揃えた。それは盗まれることはなかった。

それからずっと、ピンクで、赤で、水色で、ネコで、ウサギで、かわいいシャープペンシルを使って、2年生になり、3年生になった。高校受験を控えて、受験勉強にお気に入りのかわいいシャープペンシルを使う機会がとても増えた。使ってた、ただそれだけだった。

母が買ってきてくれたのは、エメラルドグリーンのシャープペンシル

いよいよ受験が始まる冬を迎えた。ある日の夜、母がスーパーで夜ご飯の材料と、シャンプーの詰め替えと、それから無地のシャープペンシルを買ってきた。あんた柄物しか持ってないでしょ、そんなので試験受けられないでしょ、と。エメラルドグリーンよりも、ピンクとかの方が好きだったけど、それが母の思うかわいいだったのだと思う。本当に、ただそれだけの出会いだった。

母が買ってきてくれたエメラルドグリーンのシャープペンシルで、わたしは人生初めての試練、高校受験を迎えた。周りは敵だらけの中(と思い込んでいた)、手の中に母を思い出した。母が背中を押してくれている、わたしは大丈夫。
そうして手に入れた高校生活でも、新しいかわいいシャープペンシルを買うことなく、母が買ってきてくれたシャープペンシルで勉学に励んだ。(もちろん、持ち物が盗まれないような高校を選んだ)それからまた大学受験を共に乗り越え、大学ではあまりシャープペンシルは使わなかったけれど、就活の勉強や試験でまた多くの時間を共に過ごした。

このシャープペンシルは、努力を積み上げてきた証

そして今、仕事ではいつも胸ポケットにエメラルドグリーンのシャープペンシルを忍ばせている。諦めそうになるたびに、挫けそうになるたびに、見つめるたびに、今まで乗り越えてきた人生の試練を、そして母が買ってきてくれた思い出が蘇る。わたしは辛いことを乗り越え、努力を積み上げることができた、そのことをこのシャープペンシルが証明してくれている。きっとこれからも、辛いことはあるし、試練はあるけれど、それらを乗り越えて今のわたしがあるのだから、きっとこれからも、大丈夫。これからも、このシャープペンシルと共に乗り越えていける。

わたしのたからものは、このシャープペンシルで、思い出で、母の愛だ。