マッチングアプリをはじめて使用したのは、上京してからだった。

わたしは田舎から東京に来て、右も左も分からなかった。わたしの地元はとても田舎だ。隣の家の子が恋愛をしたら、誰にも言わなくても3軒隣の家までバレるようなところだった。

だからわたしは地元にいる時は、臆病な恋愛をしていたし、男性との関わり方も分からないまま高校を卒業して大学へ進学した。

東京にきて、同郷の友達に会った。その友達はすっかり垢抜けて、東北訛りが抜けていた。そして、マッチングアプリで男性と会っていると分かった。

わたしは「田舎者である」というコンプレックスがとても強くて、大学のサークルの新歓とか、友達作りとか、そういったものにとても臆病になっていた。人に会いたかった。話したかった。わたしはあまり期待しないでなんとなくマッチングアプリをダウンロードした。

人を右と左にスワイプして選別していく感じがとても新鮮だった。わたしは神様になった気持ちで男の人を選別した。「いいね」をしなければ、もう二度と顔を見ることも、もちろん会うことない。逆に「いいね」をすれば死ぬまで関わり続けるかもしれない。

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初めて会った男の子は、わたしよりとても背が高くて、都心の大学に通っていた。高校の時に格好いいと噂されていた男の子よりも、ずっとずっと格好良かった。小顔で、その顔のどこに目を収納するんだろうと思うほど大きな目をしていた。

わたしは東北訛りが気になってぎこちない話し方で、水を飲む手は震えていた。でも彼はとても落ち着いていて、わたしがこの日のために買った服を褒めてくれた。大きな目でまっすぐ褒められると、居心地が悪くなるほど、彼のことをまぶしいと思った。

会う女の子全員に言っていると分かっていた。でもわたしは、目の前にいる男の人と同じ立場にいれることが、新しかったし、嬉しかった。

知らない場所で、知らない人と2人で会ったこのことは、お母さんも、右隣の家のおばさんも、左隣の家の野球部の中学生も、誰も知らないし、誰も噂をしない。

排気ガスにまみれた東京の空気がとても美味しく感じて、深呼吸をして、夜の新宿を子どもみたいにスキップして歩いた。

「ねえねえ、楽しいね」

わたしが後ろを振り返って彼呼びかけた。ものすごく東北訛りだった。慣れない厚底を履いていたから、靴はガコガコ音を立てて、コンクリートを蹴り上げるみたいなスキップだった。

彼はパーマをかけた髪の毛をかきあげて、左の眉毛をすこし落として困ったようにやさしく笑った。出会って3時間ほどしか経たない彼を、全面的に信用してもいいと思えるほどやさしい笑顔だった。

そして、出会って3時間も経つのに、初めて心からのコミュニケーションが取れたと思った。彼のその時の顔は、マッチングアプリという単語を聞く度に思い出す。彼とは2回ほど会って、もう会わなくなってしまった。もう彼は田舎者のわたしのことなんて忘れてるだろう。

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マッチングアプリの出会いが、必然的な出会いではい時点で、「運命の出会い」とは言えないかもしれない。しかし、その出会いの、ほんのわずかな瞬間がきらめいて、わたしの心に残っている。

たまに思い出して、とても心がかくなって、人の優しさを感じる。人が生きる時に、生きていくための、心のエネルギーは、運命の出会いほど強い衝撃でなくていい。人間は、運命なんかじゃない出会いの、一瞬のきらめきで生きていける。