マッチングアプリにハマっていた当時の私は、セックス依存症という強迫的性行動症を持っていた。

10代から20代前半、特殊な家庭環境で育ったせいか、男性に依存していた。男性からどのように見られているのか、私のことを気にしてくれているのか。自己が確立しておらず、「身体を求められない私なんて無価値」だと思い込んでいた。

10代の頃は不特定多数、20代前半の頃には5人のセフレがいた。日替わりでいろんな男と会い、ほぼ毎日誰かしらと遊んでいたと思う。今思えば狂っていた。だがしかし、「セックスしない私は無価値だ」「今すぐに身体を求めてもらわないと死んでしまう」という強迫観念があったので、この狂いはどうにもならなかったのだ。

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マッチングアプリにはいろいろとお世話になった。お気に入りのアプリがあって、毎日愛用していた。当時の私にとっては、生活必需品。そのマッチングアプリからはもう、何人の男と出会ったのかわからない。まるで毎日使うハンドクリームのように使い込んでいた。

もちろん良い出会いもあったが、失敗したことだって何度もある。よく覚えているのが、5年前のクリスマスイブ。当時付き合っていた恋人がいたが、遠距離ですぐに会える距離ではなかった。

「クリスマスイブなのに1人なんて、誰ともセックスしないなんて、生きている価値が無い」今思えばそんなわけがない。よくよく考えれば、ただの平日である。恋人だって私に会いたいのを我慢して待ってくれている。だけども、当時の私にとっては今死んでしまうのではないか、と不安に襲われる瞬間でしかなかった。

よし、適当な男を捕まえて今から会おう。ピピピとひらめいてから実際に男と会うまでは1時間ほど。あのときの私の行動は、チーターよりもはやかった。終電が近い時間だったが、そんなこと関係なかった。

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さっきマッチングしてチャットを送ったばかりの男と駅で待ち合わせをし、コンビニでケーキを買う。そんな甘い物を食べる気分ではないのに、選んだのはドロドロのホイップが載っているショートケーキ。私のように、夜中の売れ残りだった。

いざホテルへ着き、ケーキを一口食べたあと、身体を求められソレっぽいムードになるが、男は避妊具を着けたがらない人だった。あー、最悪だ。コイツは女遊びのルールを知らないヤツだ。そんなことを考えながら気持ちがスンと冷めてしまい、最中に服を着た。

「気分悪いから、帰るわ」とだけ言い残してホテルを1人で出た。終電なんてとっくに過ぎていて、タクシーの深夜料金はバカみたいに高かった。次の日の仕事は眠くてつらかったし、恋人にもバレて怒られ、ろくでもないクリスマスイブを過ごした。

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当時は強迫観念に振り回され、苦しい日々を過ごしていたが、マッチングアプリが無かったらと思うとゾッとする。きっと男に構ってほしくて、「誰でもいいから構って」と言い、逆ナンとか繰り返ししていたのではないだろうか。まだマッチングアプリにハマって、決まったメンバーであるセフレとセックスしていた方が良かったように思う。

若い頃の私はマッチングアプリに支えられ、ヨロヨロと生きてきた。マッチングアプリがあったから、マッチングアプリで出会った男達がいたから、苦しかった日々をなんとか乗り越えてきたのだ。

今では私の家庭環境なども理解してくれる夫と結婚して、セックス依存症もカウンセリングを受け、マッチングアプリとは無縁の生活を送っている。だが今でもマッチングアプリには感謝している。あの頃の私を支えてくれてありがとう。多くの出会いと経験をくれてありがとう。あの頃の経験があったから、つらい時期を乗り越えた今の私がいる。思い出を振り返りながら、もうあの頃には戻らないと誓った。