人を頼るのが苦手だ。昔から、困ったことがあってもひとりでなんとかしようとする。「誰か助けて」なんてかっこ悪くて、なかなか口に出せない。
この性格は長女だから?プライドが高いせい?
でも人って、「助けて」って思っていてもなかなか助けてくれない。

小学5年生になる4月に転校をした。始業式では各クラスの担任発表と転校生の紹介が行われた。
担任は新任2年目の男性教師。担任が発表された瞬間、私が入ることになるらしいクラスからは歓声が上がった。若くて運動神経がよくて明るい男性教師。人気がないわけがない。
全校生徒を前にしての自己紹介が終わると担任が迎えにきた。「僕もこの先生になって2年目だから新しい者同士頑張ろう」と言った。
私は「まず立場違うし、初めてと2年目って違くない?」と思った。口には出さなかったけど。素直に真っ直ぐには育っていない。

日々変わる給食時間のグループ。一人だけ男子と担任に紛れる私

担任は給食の配膳が12時15分までに完了したら、席を自由にしていいというルールを設けた。このルールは多くのクラスメイトに歓迎された。くじ引きで決められた席の偶然席が近くなった人たちと食べるよりも、仲のいい友達と食べる給食の方が楽しい。
男女協力体制のもと、順調に給食の準備が進められた。各グループ、「あの子とあの子が喧嘩中だからとか」「〇〇ちゃんがハブられてるらしい」とかでちょこちょこメンバー入れ替えがあるものの、女子は大抵大小4つほどのグループに分かれた。
転校生ということもあって、いろいろなグループに誘われた。

新しい学校にも慣れてきた頃、いつも通り「今日一緒に給食食べよ」と仲間探しをしていた。でもこの日はどのグループの誰に声をかけても「〇〇ちゃんに聞いて」とたらい回しにされた。
最初は「またグループ編成変わったのか、今回は誰が喧嘩してるんだろ」と悠長に考えていた。しかし、誰に聞いても、給食の時間を共に過ごす人が見つからない。結局、一緒に食べる仲間を見つけられないまま給食の時間を迎えてしまった。
そうなると焦った。みんながグループを組んでる中、ひとりで給食を食べるのは目立つ。恥ずかしい。いくら私1人がノロノロと配膳しても、みんなはテキパキ動いてしまう。その日も12時15分までに準備が終わってしまった。
みんなが机を動かす。驚いた。私以外の女子が一つの輪を作っていた。「そういうことだったのか」。私だけが仲間外れにされていた。
担任が声をかけてきた。「先生と一緒に食べよう」。
担任の机の周りには数名の男子が机を並べていた。「ひとりで食べるよりマシか」と机を移動させた。それから数日、私は男子に紛れて担任と給食を食べた。

仲間外れにされていたのは私。思いは言葉ではなく涙としてあふれでた

ある日体育の時間、運動会で披露する組体操の練習をしていた。
この日は二人組での倒立の練習。背の順で自動的にペアを組まれたが、クラスの女子は奇数人数。私のグループはHとMと3人で組むことになった。何回かやっていくうちに私とMの倒立は形になってきた。
「できたね。二人でできそうだね」
Mと成功を喜んでいた。しかし隣にいるHの様子がおかしい。悔しそうに私たちを見たかと思うと、泣き始めた。
帰りの会の前に担任に、教具倉庫という名の説教部屋に来るように言われた。担任は私に「仲間外れにするようなことを言うことは悪いことだよな?Hに謝まれ」。
一瞬何を言われたか理解できなかった。
「謝まれ?は?仲間外れ?ただできたことを喜んでただけなんだけど……」
担任の言葉に怒りが沸いた。

私だけが輪に入れない給食の時間。あれは注意しないくせに、なんで私ばかり説教するんだ。HもMもみんなで輪になって楽しそうに給食を食べているのに。私が「一緒に給食食べよう」と言っても他の子に聞いてと、突き放すくせに。
わたしが自ら女子から距離を取っていると思っているのか。なんで、ふと放った一言でこんなにも怒られないといけないのか。私には仲間外れにする気なんて微塵もないのに。
心の中に溢れた様々な思いが、洪水を起こして涙として流れていった。担任にぶつけたい言葉たちが涙となってこぼれ落ちていく。
本当は担任に助けてほしかった。一緒に給食を食べるのではなく、「仲間外れにするな」と他の女子に注意してほしかった。いつかしてくれると思っていた。担任の先生だから。ちゃんとわかってくれていると思っていた。
そんな期待はあっけなく崩された。私は給食のたびに泣けばよかったのか?

大人になってわかった。助けは自分から求めないと誰も気付かない

翌日からひとりで給食を食べた。担任からの誘いは断った。ひとりであることを無言で主張した。
男子が「あいつまたひとりだよ」と噂している気がする。輪を作っている女子がクスクス笑っている気がする。味なんてしない。ただひたすらに目の前にある食べ物を口に運んだ。
全女子が輪を作っている隣にひとりで食事をする女子がいるって異常じゃない?担任は何も言わない。教師なんて所詮、自分の人気が大事なんだ。多数派の意見を尊重するんだ。

成長するにつれてわかったことがある。助けて欲しいなら「助けて」とちゃんと言う。ほんとこれ大事。頼りたいならちゃんとお願いする。頼られて嫌な人って意外と少ない。
私は頼り方を間違えたのだ。あの時、担任には違う風景が見えていたのかもしれない。だって大人って意外と周りのことが見れてない。子どもが期待しているほど、ちゃんとしていない。
大人になってみて分かった。「仲間外れにされているんだ」と担任に伝えられていたら、また違う道が拓けていたかもしれない。