「女らしいってなんだ?」朝起きて一番に考えるには深すぎる問いであった。
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私の母は昔から「男の子だから女の子だからって決めつけてはだめよ。男女関係なくあなたが仲良くしたい子と遊ぶのよ」とご覧の通り暗唱できるほど口酸っぱく言われて育った。
だから、「A子ちゃんって女子っぽくない」と言われたり、「女子のくせにサッカーすんなよ」と言われたりした小学校時代は、「女子っぽい」がよくわからなかった。
年齢とともに男子と話す女子はマイノリティーな存在になる。何か人前で話すことが多く目立つポジションだった私は浮いてしまった。少し男子と話しただけで囃し立てられる。悪口やいじめまがいのものもあった。
「過去は気にしない」と言いたいところだが、あいにく私のメンタルは木綿豆腐。好奇心という油でメラメラと燃えていた私のやる気は、人間関係の面倒くささと理不尽さに消されてしまった。
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そんなこんなで、目立つことを避けるようになった私はどんどん怠惰になっていった。考えることを放棄し、クラスの和に入ることすら面倒くさくなった。高校生になる頃には人前で発言することすらにも抵抗感を感じていた。猪突猛進マインドで色々挑戦することは、私の誇るべきアイデンティティなのだが、自ら蓋をかぶせてしまったようだった。
物足りなさを感じつつも平穏な高校生活を送っていたが、転機が訪れた。学校の国際交流の一環として、近くの大学の留学生とレクリエーションを行うことになった。
英語が得意だった私は実行委員を任されることになり、開会式の司会を担当した。久しぶりに人前で話すことや、またトゲのある言葉を言われるかもしれないという不安があったが、ポッと胸のうちが熱くなったのを感じた。
総勢400人超えの聴衆を前にステージで話すことはさすがに緊張したが、用意した原稿を読んで、あっという間に終わってしまった。ホッとしたのも束の間、機材トラブルが発生した。ざわざわし始める会場。実行委員長から一言「英語で留学生向けに何か言って、時間を稼げ」という難題を与えられた。以前だったら断固拒否したが、気づいたらまたステージの上に立っていた。胸が高鳴った。
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留学生もレクを楽しんでもらえるよう、ルールを説明したり、このイベントの目的や実行委員の思いを頑張って話した。苦手なジョークも交えた。
機械が直るまで話続けられるか?不安が募る。でも、馬鹿にされてもいい。役に立ちたい、与えられた使命をやりとげたい。ここにいる高校生と留学生たち全員に楽しんでもらいたい。そう思った。ただ少し英語が得意な人間が、脳みそをこじ開けて知識をかき集めた。
“ Thank you for coming today. I hope you enjoy this special event!”
最後の言葉を言い終える。一つ、二つと拍手の音が大きくなる。胸の鼓動が高まる。顔を上げると留学生たちは笑顔になっていた。同級生たちもすごい!と拍手をしてくれた。
「気持ちが伝わった。僕たちのためにありがとう」とパキスタンからの留学生が言ってくれた。
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たったの数分間。用意されていない不格好な説明。ただのレクの司会。
でもこの瞬間、自分の言葉を通じてこんなにも多くの人と心がつながったのを感じた。
「女らしさとは」という問いからだいぶずれてしまったが、「自分らしくいるのが一番である」高校生がたどり着いたチグハグで最大級の答えだ。女子だから、嫌われるから、と周りの目を気にしてばかりでは本領を発揮できない。なんだか損している気分になったのでこれを機にやめた。
言葉は人の心と心をつなぐ。私の声はきっと届く。
今日も良い日になりますように。