大学一年生の時、私は同じ学部の男の子に恋をした。その子はすごく穏やかで少し不思議な雰囲気をもっていた。共通の友人は何人もいたが、授業が一緒でも特に会話をすることはない距離感だった。
同じ学部の男の子の面白さに気が付いて、ますます彼を知りたくなった
ある日の授業後、友人達に遊びに誘われた。そこにはその男の子もいた。
その日は放課後に別の授業があったので断ったが、ただ断るのは悪いと思ったので冗談で「みんなで放課後E棟に来なよ~」と言った。誰も来るとは思っていなかったし、何より私自身が本気にしていなかった。
放課後、私が向かった教室の前にはその子がいた。私たち学部生がこの棟に来る用事などないはず、しかもこんな時間に。「まさか本気にしたの?」と驚いたが、正直とても嬉しかった。今までそんなに話す機会がなかったことと、私が何とも思っていなかった言葉を受け入れてくれたことが。
しかし、一つ問題があった。その授業は留学生との交流を目的としていて教室にいる学生達の母国語は様々。基本的に英語で行う授業であることを伝えておらず、男の子は困惑。はじめは申し訳ない気持ちがあったが、積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれる姿がなんだか嬉しかった。
授業後、私たちは初めて二人でご飯に行った。その時初めて私はその子の面白さに気が付く。
学校で会う時より格段に口数が多いこと、実はアクティブな性格であること、先輩たちにとても可愛がられていること、何でもない会話にもオチをつくること。「こういう人なのだろうな」をたくさん覆され、ますます知りたくなった。
「彼女と別れた」。二年間、まともに話さなかった私への突然の報告
その日から学校で会えば少し話し、週一である授業の後にご飯に行きドライブをする仲になった。十九歳の男女が二人きりで何度も会っているのだ、何があってもおかしくはないが、私たちはそういう空気になったことが一度もないまま二年生になった。
恋愛の話になったことは何度もあるが、私は自分の気持ちを伝えられなかった。この関係が楽しすぎて崩したくなかった。
学部は同じだったが、授業が被らなければわざわざ会う事もなく、友人何人かと遊びに行くことはあっても二人で会う事はなくなっていた。
大学生活も残り半年になった四年生のある日、食堂で一人パソコンとにらめっこする私の隣の椅子にさも当然のように座ってきたのはその子だった。
「彼女と別れた」。約二年間、まともに話す事のなかった人間にする報告ではない。本当に不思議な人だ。
言いたいことはたくさんあったが、私は重たい空気が何より苦手なので笑いながら「慰めてやる!」と言い放ち、パソコンを閉じて友達に連絡した。
その子と二人になるのが気まずかった訳ではないが、後になって友人達に騒がれるのが面倒だなと思ったからだ。
二年が経って、彼は私が恋した男の子ではなくなっていた
一番仲の良い男の子を誘って三人でドライブをした。慰めるという体だったが、朝までぶっ通しの運転も三人分のご飯代を払ったのもその子だった。相変わらず優しかった。
その日からまた、私達は二人で出かけるようになった。授業があまりないので集合は学校ではなく私が住むアパートの前。いつぶりだろうかこの車の助手席に座るのは。
一年生の頃の楽しかった時間が蘇る。相変わらず二人でいると口数が増える人。彼女の束縛が激しかったこと、就活の面接で何度も失敗していたこと、派手な髪色だった私とは絶対に仲良くなれないと思っていたこと。どれもなんとなく知っていたが、知りたくないこともたくさんあった。
コンビニで買ったコーヒーにミルクを入れなくなっていること、左耳にはピアスが二つ光っていること、友人からの電話を平気で無視すること。車内に流れるのは二年前と変わらずあのバンドの曲だったが、隣にいるのは私が恋した男の子ではなくなっていた。