大学中退後最初に入社したのは、エステサロンだった。人と話すことが好きだったし、お客様のお肌の変化が目に見えてやりがいを感じていて、かつ売上や店販の数字も悪くなかったから、仕事は好きだった。
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サービス残業が続いても、仲の良い同僚と一緒の残業は苦しくなかったし、自分が数字を上げることによって色々任せてもらえるようになり残業が増えていたから、誇りすらあった。
でも、とあるタイミングでどうしてもマネージャーからのパワハラに耐えられず、辞めてしまった。というより、途中で「これは世間ではパワハラと言うのではないか」と気づき、逃げてしまった。
世の中のことを何も知らずに就活をして、なんとなく前職であるエステサロンに入社した。だから、ここがブラックだと気づくのに2年近くかかった。例えば、有給が付与されず、もちろん有給を使う事も叶わない。
お昼休憩はあっても10分、お手洗いにも行く暇がないくらいの予約管理。朝は3時間以上仕事をしてから出勤を押し、定時に退勤を押してから終電まで残業。勤怠には8時間しか記録が残らないため、もちろん残業代も出ない。妊娠した先輩がマネージャーに怒鳴られる姿は、見ていられなかった。
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わたしは心のどこかで、わたしみたいな学歴も資格も能力もない人間は、こういう、いわゆるブラック企業にしか居場所がないんだと感じた。良い大学を出て多くの資格を持ってるような人は世の中に必要だから、もっと良い環境に身を置くことができて、もっと自分を大事にできるんだと。わたしには価値がないから、それなりの環境にしか居場所がないんだと。
そんな、良くない環境に約2年身を置いて、良くない環境がわたしにとって「普通」になった頃。繁忙期直前に行われたマネージャーとのミーティングでやっとここが普通ではないことに気づき、ここから逃げることを決断。
大好きな同僚たちに迷惑がかかることを承知で、それでもみんなから「お疲れ様!」と笑顔で見送られ、繁忙期の真っ只中に退職。苦しい苦しい転職活動を経て、学歴も資格も能力もないわたしは誰もが知る大手企業に就職した。
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驚いたのは、お昼に同期たちとランチに行ける事だった。「仕事の昼休憩にお店でランチ」なんてドラマやアニメの中でしか起こらないと思っていたから、こんなことが現実に起こるなんて、やっと社会の仲間入りを果たしたような気分だった。
それ以外にも、有給を使って海外旅行をする人、妊娠した社員に笑顔で「おめでとう!」と言葉をかける上司、定時に退勤し飲み会に行くチームメンバーたち。
大手企業の看板を背負い、現代的なオフィスで、優秀な社員と、自分の強みを活かしながら、やりがいのある仕事ができる。わたしは本当に恵まれてる。今の仕事についてから、わたしは過去の自分が恥ずかしくなった。
「自分に価値がないから、良くない環境にしか居場所がない」そんなことはなかった。自分の価値は、自分で見つけるものだった。自分の価値を発揮できる環境は、自分で探すことができた。前職で自分の価値が見つけられなかっただけで、自分の価値はきっと変わらず自分の中にあったのに。