100円ショップがハロウィングッズで埋め尽くされ、半袖か長袖かで迷って長袖を選ぶようになるくらいの季節、私は毎年、高校の学園祭を思い出す。
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母校の学園祭は毎年10月後半から11月初めあたりの金土で行われていた。イベント事が好きな私は中学の頃から毎年、学園祭が楽しみで仕方なかった。
けれど、中学の頃は反抗期の子も多く、一生懸命に本気で何かに取り組むのがダサいとでも思っているような人が多かった。結果、中途半端な装飾と中途半端な内輪ネタで作られた、陳腐な出し物しかできていなかった。リーダー役を割り当てられることの多かった私は、もっと本気でみんなで楽しめる学園祭を作りたい、青春の1ページになるような思い出を作りたいと思いつつも、でもこんなものだよなとも諦めていた。私と同じ温度感で、私の隣にいてくれる誰かが、現れるなんて夢は考えないようにしていた。
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それが、高校に入学して変わった。中高一貫校に通っていた私にとって、中学から高校に変わっても、目新しいことは少なかったが、卒業後の進路や学力別に分けられた新たなクラスのメンバーだけは、初めて同じクラスになる人も多く、新鮮だった。しかも、そのクラスメイトたちは皆、勉強もスポーツもイベントも何事にも全力で取り組むし、誰かが努力していれば、その人を応援するか、自分も負けないようにもさらに努力するというスタンスの子が多かった。
もちろん、全員がそうだったわけではないし、中学の頃、私と同じクラスでそのやんちゃぶりを見てきた子もいたが、周りの空気に感化されてか、学園祭の準備が始まる時期になる頃には、クラス全体で、切磋琢磨するぞという仲間意識が芽生えていた。
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学園祭を仕切る文化委員には私ともう一人、男子がいた。その子は目立つタイプでもなかったし、クラスをまとめるタイプの子でもなかった。しかし、夏休みが明けるとすぐに、向こうから私に学園祭に向けての流れについて相談を持ちかけてきた。その後も、率先して買い出しリストを作ってくれたり、力仕事の際は男子に声をかけて手際よく進めたりしてくれた。一緒に100円ショップに行って、予算内に収まるように四苦八苦したこともあった。この時期だとオレンジか黒の装飾ばかりだよねと頭を悩ませた。来年はもっと早い時期に買っておくべきかもねと鬼に笑われるような話も自然としていた。
私にとっては、彼は自分以上に成績に関わらない”面倒なこと”に全力で取り組んでいる初めての人だった。学園祭本番も、茶道部主催のお茶会でなかなかクラスの模擬店のシフトに入れない私に代わって、彼はずっとお店に立ってくれた。
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高1の学園祭が終わって数日後、私達は収益の計算と、余った予算の返金のために、職員室の前で担当の先生を待っていた。
「みんなは私達のことすごく大変そうって言ってるけどどう?」
「大変だけど楽しいよね」
「そうだよね。でも、周りの女子達は来年自分は文化委員にはならないって言ってた」
「俺は来年もなるよ。なつめさんは?」
私は来年、文化委員にならないという選択肢が頭になかった。私たちのコースは3年間同じクラスだ。学園祭には受験生は参加できないから、高校2年生が最後になる。今年の反省を生かして、来年はもっと良いものをつくろうと、高1の学園祭が終わらないうちから考えていた。
「もちろん。来年のクラスパーカーはもっと生地の薄いものにしようね」
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秋の気配がするとは言え、あわただしく活気にあふれた学園祭では制服の上に長袖パーカーを着るのは暑い。
私達はその時、知る由もなかった。私たちが翌年の学園祭後、付き合うことになるなんて。